ブログ「やぽねしあのホクロ」からの転載です。
  *******************************「南西諸島でどんな戦争が起きようとしているのでしょうか」

―アメリカ「海洋プレッシャー戦略」にみる戦争への道―

 先日、インターネット検索を利用しようとしたら「横当島(よこあてじま)」というキーワードが検索の上位に出ていました。「なぜ横当島?」――中国のものと思われる潜水艦が横当島周辺を通過したと防衛省が発表したというニュースが流れたことがわかりました。横当島はトカラ列島最南端の無人島で、その南に奄美大島があり、奄美のノロは神の島として崇拝しています。外国の潜水艦は日本近海で頻繁に活動しており、自衛隊は監視しながらも軍事機密としてめったに公表しないのに今回はなぜ公表したのでしょうか。

 一方、尖閣諸島では今でもしょっちゅう中国の公船が出没しており、日常茶飯事の出来事ですが、ときどき中央メディアに大きく取り上げられます。それはどういうときでしょうか。イージス・アショア導入が決まったときは北朝鮮のミサイルの脅威が喧伝されました。今回は「横当島」が利用されようとしています。朝鮮半島や米中間の緊張のなかで日本人を煽動しようとする勢力の動きに巻き込まれないようにしたいものです。

米軍の戦略では馬毛島から与那国島まで中距離ミサイル配備か

 沖縄島を含む南西諸島に自衛隊のミサイル基地が配備されつつありますが、「攻撃されたらどこに逃げるんだ」とか「弾薬庫が爆発したら危ない」「自然破壊が起き、生活インフラも脅かされる」という話はよくわかりますが、戦争を知らない私には中国と日米の間で起きるといわれる紛争や局地戦のイメージが出てきません。自衛隊は「中国は尖閣諸島と同時に石垣島・宮古島も占領する」と考えているようで、島嶼防衛に失敗したあとの島嶼奪還訓練を一生懸命やっています。それでも私には「中国人も働き、観光にも来る沖縄相手に中国が局地戦をしかけるだろうか」「アメリカは本当に助けに来るのだろうか」となんとなく思うだけでした。そんなとき、小西誠さんのfacebookでアメリカの軍事戦略「海洋プレッシャー(Maritime Pressure)戦略」があるのを知り、南西諸島の軍事要塞化は、アメリカと中国が世界覇権を争うなかの一環であることがわかりました。つまり、両国が軍事・情報(5G、AI、ビッグデータ)・宇宙(戦争)・医療(創薬)・経済(種子、貿易、金融)などあらゆる分野で仁義なき主導権争いをしており、日本はアメリカの中国封じ込め策の一環として南西諸島で軍事的な圧力をかけようとしています。そこでアメリカの有名なシンクタンク「戦略予算評価センター(CSBA)」が発表した「海洋プレッシャー戦略とその戦略の骨幹をなす作戦構想『インサイド・アウト防衛』」の内容をみてみました。

 この戦略の目的は「西太平洋での軍事的侵略の試みは失敗することを中国指導者に分からせること」だそうです。まず、第1列島線(南西諸島)沿いに分散して地上発射の対艦ミサイルや対空ミサイルを大量に置き、これを支援する海・空・電子戦能力を持つ部隊を配備します。移動可能で分散した地上部隊や水陸両用部隊は紛争が発生したら各島に分散し、直ちに対抗できるようにします。これがインサイド部隊の活動です。元陸上自衛隊東部方面総監・渡部悦和氏の解説(http://www.jfss.gr.jp/article/924)には「カモフラージュ・隠蔽・欺瞞などの対抗手段を追加した、機動性があり発見が困難な地上部隊固有の残存性を利用して、インサイド部隊は、第一列島線の諸島を、センサー、ミサイル、電子戦システムなどのマルチドメイン能力を備えた防御基地へと変貌させる」とあります。インサイド部隊が守っている間に強大な軍事力を持ったアウトサイド部隊が中国大陸まで視野に入れた攻撃に移るようです。インサイド部隊は自衛隊・米海兵隊中心、アウトサイド部隊は米海軍・空軍中心というイメージを持ちました。CSBAはアメリカン・フットボールに例えてインサイド部隊は「ディフェンスライン」、アウトサイド部隊は「ラインバッカー」だと言っています。

 CSBAの図には九州南部から与那国島にかけてミサイルの図が8ヶ所あります。島では馬毛島・奄美大島・沖縄島・宮古島・石垣島・与那国島が該当します。すなわちアメリカの構想では馬毛島や与那国島、沖縄島にもミサイルを置くことになっているのです。

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 では、どのような戦闘が想定されているのでしょうか。構想では①海洋拒否作戦、②航空拒否作戦、③情報拒否作戦、④陸上攻撃作戦-が主要な作戦として挙げられ、それぞれ①中国の上陸部隊が上陸する前に、中国の海上部隊を撃破する(対艦巡航ミサイルASCMや対艦弾道ミサイルで中国の水上艦艇を攻撃)、②改良型陸上配備型の統合防空・ミサイル防衛(IAMD)システムにより、人民解放軍の攻撃部隊を運ぶ空輸やH-6爆撃機などの長距離爆撃機の攻撃を阻止する、③中国のセンサーや主要ノードを攻撃してC4ISR(指揮・統制・通信・コンピュータ・情報・監視および偵察)ネットワークを部分的に遮断するために、陸上攻撃、対艦兵器、対空兵器を使用する、④潜水艦発射の巡航ミサイル及びアウトサイド部隊である航空部隊および海軍部隊の長距離ミサイルによるスタンドオフ攻撃、より接近して攻撃を行うステルス航空機による地上目標攻撃を行う――としています。

 私は、以上のようなことになれば南西諸島はシリアのようになってしまう、と思ってしまいます。一方、中国はこのような戦略を知って「軍事的侵略の試みは失敗する」と思うのでしょうか。解説には「飛んでくるミサイルや航空機の能力を妨害し命中させなくする『電波妨害器』と電子機器を破壊する『電磁砲』の早期開発・導入は喫緊の課題である」と書いてありますが、相手より強い軍事力を持たないと“抑止力”になりませんから際限のない軍拡競争になり、どこまで行っても安心できる状態にはならないでしょう。

にわかにクローズアップされる憲法違反の敵基地攻撃能力

アウトサイド部隊は中国本土の目標に対する攻撃作戦を行うことができるとされています。CSBAの図にも長距離打撃の図があり、南西諸島付近から3,000kmまでの矢印が中国大陸に向けて伸びています。これまでアメリカはロシアとのINF条約(中距離核戦力全廃条約)によって地上発射の陸上攻撃兵器は最大射程499kmまでしか持てませんでしたが、昨年8月に条約が失効しているのでいまは中距離ミサイルを持てる状態になっています。今年4月の毎日新聞は「日米両政府は中距離ミサイルの日本配備の可能性を巡って水面下で協議している」と報じました。最近のイージス・アショア配備中止の報道のあと、にわかに「敵基地攻撃能力を持つべき」という主張が自民党内に強まっていますが、これは「海洋プレッシャー戦略」を前提に南西諸島に中国の基地を叩く中長距離ミサイルを配備するということでしょう。そのために憲法改悪に執着しているのです。日米は軍事体制の一体化が進み、米軍基地・自衛隊基地は日米共同使用が当たり前になりつつあります。改憲前であっても米軍の敵基地攻撃能力を使うこともできます。

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安倍退陣から非武装による平和な国際社会へ

南西諸島にインサイド部隊(自衛隊、米海兵隊など)が配備されればそれだけで島の社会は変質します。共同体社会も民主主義も破壊されるでしょう。いったん戦闘が起きれば住民は犠牲になり、社会インフラや自然は壊滅的ダメージを受けます。考えるだけでも恐ろしくなります。

私は島を守るためには南西諸島を非武装地帯にするしかないと思います。旧日本軍は奄美大島や沖縄島、宮古島、西表島に要塞を作ろうとしましたが19222月のワシントン軍縮会議による太平洋防備制限条約によって中止されました。太平洋戦中に「軍事的空白を埋める」という理由で島々に軍隊が置かれるまで非武装地帯だったのです。軍隊配備の結果があの悲惨な沖縄戦でした。いままた自衛隊・米軍は「南西諸島の軍事的空白を埋める」という同じ理由で要塞化しようとしています。「海洋プレッシャー戦略」をみると日本政府はどこに向かって進もうとしているのかがわかります。平和憲法も民主主義も、人の心や体も、地域社会や自然もことごとく破壊されてしまうでしょう。まずは内閣支持率18%の長野県や沖縄県の人々を見習い、安倍政権を引きずり下ろすことです。そして、外交と民間交流によって安定した平和な国際社会を目指したいと思います。

インサイド・アウトサイド部隊