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2021/03/02

民主党-立憲民主党の「領域警備」問題について

Tweet ThisSend to Facebook | by やぽねしあ

※小西誠さんのFacebookを紹介します。


民主党-立憲民主党の「領域警備」問題について

 

民主党は、2015年の安倍政権の安保法に対抗して、「領域等の警備に関する法律案」を維新と共同で提案した。そして、今また立憲民主党の枝野氏は、この法案を今後推進することを表明している。だが、この「領域警備」なるものは、尖閣ー東シナ海の緊張をいたずら高めるものである。その内容は、拙著『オキナワ島嶼戦争―自衛隊の海峡封鎖作戦』の第7章に執筆しているので紹介したい。

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第6章 「東中国海戦争」を煽る領域警備法案

 「領域警備」とは何か

 2015年の国会で、民主党(当時、以下同)・維新の党の両党が、政府の安保法案に対抗して提出してきてから、ようやくマスコミで「領域警備」という問題が、わずかに注目されるようになった。だが、この問題も他の軍事問題と同様、メディアも、野党も、全く表層の理解しか出来ていない。

 さて、この領域警備という問題が提起されたのは、すでに 20年近く前のことだ。それは以下のような制服組の主張から始まった。

 「ポスト冷戦時代の大きな特性として、平常時と有事、平常時と周辺事態との間に発生し、あるいは周辺事態に伴い発生する可能性の高いテロ、海賊行為、組織的密入国、避難民の流入、隠密不法入国などに対する対処の責任、ならびにこのような状況の中で起こり得るゲリラ・コマンドゥ攻撃や弾道ミサイル攻撃など、新たな脅威の態様やこれに伴う部隊運用の変化に対応し得る法制の整備も必要である」。

 そしてまた、「この際、これらの事態への対応に密接な関係のある自衛隊に対する『領域警備の任務の付与』及び『武器等の使用基準(ROE)』についても本格的検討が必要と考える。特に領域警備については、ポスト冷戦時代の特性にかんがみ、我が国の領域を保全するため、国際法規・慣習に基づき、平常時からの自衛隊の任務として早急に整備されるべきである」と(以上、 98年5月 15日付『隊友』、西元徹也・元統合幕僚会議議長)。

 『隊友』とは、自衛隊内の機関紙である。西元は、当時から陸自では著名な制服組最高幹部であり、退官後の1996年、新大綱の作成に関わった人物でもある。西元ら陸自の制服組は、当時、こうも主張していた。平時の任務として、空自には「領空侵犯に対する措置」があり、海自には、「海上警備行動」があるが、陸自にはその任務がない。だから、「平時の任務として領域警備の任務を付与せよ」と。

 この西元などの制服組の主張に対し、当時、猛烈に反発したのは、残念ながら野党でも、メディアでもない。後藤田正晴内閣官房長官であった。後藤田は、「平時の領域警備」、すなわち、平時の国内の警備は、もっぱら警察の仕事だ、これを自衛隊にまかせるわけにはいかない、と。

 しかし、この警察と自衛隊の争いは、自衛隊の勝利に終わったようだ(平時の海上警備を巡る海保と海自の争いもある)。その結節点は、新『野外令』が制定された2000年のことである。この2000年という年は、自衛隊の権限が歴史的に拡大する重大な年となったのだ。

 2000年の 12月、防衛庁長官(当時)と国家公安委員長との間で、「治安出動の際における治安の維持に関する協定」「同細部協定」「同現地協定」(後述)などが、次々と改定された。改定の内容は、簡潔に言えば、従来の自衛隊の治安出動対象である「暴動」がなくなり、代わって「治安侵害勢力」という概念が明記され、そして、「治安侵害勢力」への対処において、警察力が不足する場合には、初めから自衛隊が対処するというものだ(同協定第3条)。つまり、従来の自衛隊の治安出動は、もっぱら警察力の補完であり、警察力で対処できない場合のみ自衛隊が対処するという定めであった。しかし、この改定によって、自衛隊が初めから警察に代わって国内警備の任務に就くことになったのである。

 その契機となったのは、すでに述べてきた1997年の新ガイドラインの改定だ。このガイドラインによって、自衛隊の任務に新たに「ゲリラ・コマンドゥ対処」という任務が付与され、その一環として、治安出動関連の法令が改定されたのだ。

 そして、これらの改定とともに全国各地での、県警と陸自の師団との「現地協定」が結ばれ、その後、毎年のように各県警と自衛隊の間で、「ゲリラ対処のための治安出動訓練」が行われている。これらについては、ほとんど公開され、メディアでも報道されている。

 さて、問題は明らかだ。今や、平時の国内の警備でも、「治安侵害勢力」=ゲリラ対処などを口実にして、自衛隊が主体として躍り出てきたということだ。これは、次の領域警備における自衛隊の治安出動について見れば、もっと明白となるのである。

 民主党・維新の会の領域警備法案

 さて、陸自制服組の長年の悲願とも言える領域警備であるが、安保法の国会審議が始まった2015年7月、民主党と維新の会の、両党の共同提案として「領域警備法案」が提出された。その全文は巻末に掲載しているから、参照してほしい。この概要を紹介すると以下のようになる(民主党・大島議員の国会説明の要約、傍点筆者)。

①わが国の領海、離島等での公共の秩序の維持は、警察機関で行うことを基本としつつ、警察機関では公共の秩序を維持することができないと認められる事態が発生した場合には、自衛隊が、警察機関との適切な役割分担を踏まえて、当該事態に対処すること等の原則を定める。

②政府は、領域等の警備に関する基本的な方針を定めるとともに、警察機関の配置の状況や本土からの距離等の事情により不法行為等に対する適切な対処に支障を生ずる高い蓋然性があると思われる区域を領域警備区域に定め、いずれも国会の承認を求める。

③領域警備区域での公共の秩序を維持するため、自衛隊が、情報の収集、不法行為の発生予防及び対処のための「領域警備行動」を行うことを可能にするとともに、これら自衛隊の部隊に対し、平素から警察官職務執行法及び海上保安庁法上の権限を付与する。

④治安出動又は海上警備行動に該当する事態が発生する場合に備え、あらかじめ領域警備基本方針及び対処要領を定めておくことにより、あらためて個別の閣議決定を要せずにこれらの出動が下令できるようにする。

⑤警備区域での公共の秩序維持、船舶の衝突の防止のために特に必要があると認めるときには、当該区域の特定の海域を航行する船舶に対する通報制度を設け、必要に応じ立ち入り検査を行うことができることとする。

⑥領域警備区域以外の区域についても、国土交通大臣から要請があった場合には、自衛隊の部隊は、一定の権限をもって海上保安庁が行う警備の補完をすることができることとする。

 この領域警備法案の中心的内容は、紹介した自衛隊の治安出動関連の協定と同様、「領海・離島」などで警察の対処が出来ない事態に、自衛隊が当初から警察に代わって対処する、そのための離島などの「領域警備区域」を決め、この区域では、自衛隊に「平素から警察官職務執行法及び海上保安庁法上の権限を付与」する、ということだ。

 自衛隊に「平素から警察官職務執行法及び海上保安庁法上の権限を付与」するとは、言うまでもないが、自衛隊に治安出動と同等の権限を与えるということである。これは、後述するが治安出動という「有事」における権限が、平時から自衛隊に与えられるという、驚愕すべき事態である。

 これは、グレーゾーン事態(平時から有事への移行期)へのシームレス(切れ目のない)な対処を可能にするため、というが、何のことはない。平時の仕事がない、暇な陸自に平時からの仕事を与える、ということだ。

 しかし問題は、民主党などが現在の東中国海を巡る情勢を全く理解していないことだ。ここで明確にすべき決定的に重要なことは、本来、紛争を平和的に収めるには、平時から有事の事態への「切れ目」をあえて作り出すことであり、それを断絶させることである。

 現実に、もう一方の当事者の中国は、わざわざコーストガードを作り(中国船に英語で表示)、日本の海上保安庁の存在(海上警察)に合わせてきているのである(2013年)。つまり、軍隊間の衝突を避け、警察間の関係で事を平和裏に収めようということだ。

 言うまでもないが、海保を含む警察権の執行は、違法行為者を逮捕・拘束するのが仕事だ。しかし、軍隊は、火器を使用した戦闘を想定している。これは、領域警備法案がいう自衛隊の平時(グレーゾーン事態)の任務も、治安出動も、同様である。

 いわゆる警察権については、「警察比例の原則」があり、武器の使用の効果がその使用目的に比して、必要最小限でなければならないとされている。しかし、領域警備法案が定める自衛隊の権限は、とりあえずその行動基準においては「警察官職務執行法」を遵守するとはいえ、拡大していくことは明らかだ。つまり、事態によっては「合理的に必要と判断される限度で武器を使用できる」(自衛隊法第 90条「治安出動時の権限」)のであり、「小銃、機関銃(機関けん銃を含む。)、砲、化学兵器、生物兵器その他その殺傷力がこれらに類する武器を所持し、又は所持していると疑うに足りる相当の理由のある者が暴行又は脅迫をし又はする高い蓋然性があり、武器を使用するほか、他にこれを鎮圧し、又は防止する適当な手段がない場合」(同条3項)には、その武器使用も一段とエスカレートするのである(自衛隊法上の治安出動の規定も、当初は警察官職務執行法の適用から始まり、合理的に必要と判断される限度で武器を使用できることに注意)。

 もちろん、民主党などの領域警備法案が、始めから領域警備において自衛隊に治安出動の権限を与えているわけではない。しかし、「平素から警察官職務執行法及び海上保安庁法上の権限を付与」するということは、実体としてすでに治安出動の権限が与えられているということであり、また、同法案は「内閣総理大臣が領域警備区域について自衛隊法及び領域警備基本方針の定めるところにより治安出動を命ずる場合」(同法案第8条)と、治安出動への発展も想定されているから、そのエスカレートは明らかだ。

 結論すれば、民主党などの領域警備法案の根本的に重大な問題は、「自衛隊の出動」という「軍事行動」が初めから想定され、中国との「武力衝突」をも予定するという、恐るべきものになっているということだ。繰り返すが、尖閣列島問題などの紛争があるとしても、いや、だからこそであるが、現段階で日中が行うべきことは、このような挑発的な領域警備法案を提出するのではなく、紛争を収めるためのコーストガード間の取り決めなどをしっかりと創ることではないのか。 

 しかし、領域警備法案の提出という問題は、およそ民主党などの野党は、なぜ戦後海上保安庁が設置されたのか、ということも全く認識できていないのではないか。

 海上保安庁法には、以下のような重要な規定がある。                「この法律のいかなる規定も海上保安庁又はその職員が軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営むことを認めるものとこれを解釈してはならない」(第 25条)

 これは、海上保安庁が軍隊とは一線を画すことを定めている歴史的な規定である。この条文は、海上保安庁があくまで「海上警察」としてのみ機能することを求めているのである。

 しかし、自衛隊制服組(例えば、元自衛艦隊司令官・香田洋二)などは、この海上保安庁法の規定に対して、「海保巡視艇の場合は 25条によってミリタリーの位置づけを否定していますので、中国海警船艇に対しては、限定的対処しかできない」から、「もう1つの課題が海保法 25条の廃止」だというのだ。

 だが、ただ今現在は、日本と中国の海上保安庁間による相互の警察権の行使によって、尖閣諸島やその周辺海域の平和が保たれているのであり、仮に領域警備法の成立によって、自衛隊がこの海域に出動することになれば、一挙に軍事的緊張が激化することは疑いない。そして、現在の日中間には、緊急時の軍隊間の「海空連絡メカニズム」さえ、スタートしていない。ここ数年にわたりこの問題は論議されているが、一向に進展しないのである(米中間の連絡メカニズムは、2014年11月に合意)。

 政府は、このような民主党などの領域警備法案の提案に対し、「中国の反発を招く懸念があることからあえて法改正はせず、海上警備行動の際に自衛隊の出動を早める運用の改善で対応することを決めた」(法案提出前の与党協議)と報じられているが、実際は、「領域警備」に関する認識は、民主党などと大差がない。 

 政府の領域警備への対応

 政府は、領域警備について、すでに「国家安全保障戦略について」(「国家安全保障会議」「閣議決定」2013年 12 17日)という文書で、具体的に決定している。

 それによれば、「領域保全に関する取組の強化」として、「我が国領域を適切に保全するため、……領域警備に当たる法執行機関の能力強化や海洋監視能力の強化を進める」とし、「加えて、様々な不測の事態にシームレスに対応できるよう、関係省庁間の連携を強化する」。「また、我が国領域を確実に警備するために必要な課題について不断の検討を行い、実効的な措置を講ずる」としている。

 この政府決定の直前に自民党も、「領海警備を自衛隊の任務として位置付け、外国公船・軍艦が退去要請に応じない場合は、首相が自衛隊に領海保全行動を発令、武器使用を含む必要な措置を取れる」という「領域警備保全法案」(2013年6月)の骨子を作り、衆院選の選挙公約として掲げている。

 こういう経過の中で、政府は「グレーゾーン事態」に対する提言と閣議決定を行ったのである(2014年7月1日)。

 これは「グレーゾーン対処」に関して、「警察や海上保安庁などの関係機関が、それぞれの任務と権限に応じて緊密に協力して対応するとの基本方針の下、①各々の対応能力を向上させ、②情報共有を含む連携を強化し、③具体的な対応要領の検討や整備を行い、④命令発出手続を迅速化するとともに、⑤各種の演習や訓練を充実させるなど、各般の分野における必要な取組を一層強化することとする」とした。

 このうち、手続の迅速化については、「我が国の領海及び内水で国際法上の無害通航に該当しない航行を行う外国軍艦への対処について」(2015年5月 14日、閣議決定。巻末参照)という決定を行い、電話による当該閣僚の閣議決定による「海上警備行動」の発動を可能とした。

 また、同じ日付で「離島等に対する武装集団による不法上陸等事案に対する政府の対処について」という閣議決定を行った。ここでもその対処について、電話による閣議決定を可能にした。それは次のようにいう(治安出動についてのみ。海上警備行動については巻末参照)。

 「警察機関による迅速な対応が困難である場合であって、かつ、事態が緊迫し、治安出動命令の発出が予測される場合における防衛大臣が発する治安出動待機命令及び武器を携行する自衛隊の部隊が行う情報収集命令に対する内閣総理大臣による承認、一般の警察力をもっては治安を維持することができないと認められる事態が生じた場合における内閣総理大臣による治安出動命令の発出等のために閣議を開催する必要がある場合において、特に緊急な判断を必要とし、かつ、国務大臣全員が参集しての速やかな臨時閣議の開催が困難であるときは、内閣総理大臣の主宰により、電話等により各国務大臣の了解を得て閣議決定を行う。この場合、連絡を取ることができなかった国務大臣に対しては、事後速やかに連絡を行う」

 この「離島対処」という閣議決定は、見てきたように、「不法上陸」ということを口実にし「事態が緊迫し、治安出動命令の発出が予測される場合」と、すでに自衛隊の治安出動を想定してたてられているということだ。そして、その自衛隊の治安出動という重大な決定が、「電話による閣議決定」というように、いとも簡単に行われようとしていることだ。

 要するに、これらの政府の離島対処については、民主党などの領域警備法案を先取りして作られているということだ。単に「領域警備法」が作られていないというだけである。

 安倍首相は、民主党などの領域警備法案の国会提出を批判して、「軍隊同士が対峙したら緊張が激化する」というのだが、この「離島対処」の閣議決定はもとより、南西重視戦略のもとに先島諸島に自衛隊を大々的に配備することこそ、まさしく、中国との軍事的緊張を一挙に激化させる、戦争挑発そのものになるのだ。

領域等の警備に関する法律案の内容は以下のリンクから

http://www.shugiin.go.jp/.../gian/honbun/houan/g18701013.htmhttp://www.jpsn.org/special/collective/8934/

 


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