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岩垂 弘 (ジャーナリスト)
世界平和アピール七人委員会は6月24日、「平和国家として歩む――軍事力増強とは異なる道を――」と題する緊急アピールを発表した。
22日に公示された参院選で、物価高騰や円安対応と並んで、日本の防衛力増強や改憲が争点となっているところから、これまて「世界平和実現」「日本国憲法擁護」などを掲げて活動してきた七人委としては危機感を深め、急きょ国民に向けてアピールを出すことにしたものだ。
緊急アピールは、まず、ウクライナ情勢を反映して日本で「軍事力をいっそう強化しなければならない」との声が強まっていることを憂慮し、「軍事力強化の動向は、これまで築き上げてきた日本の平和路線の否定にとどまらず、かえって戦争を招きかねないことを強く銘記すべきである。他方、軍事力の増強は、際限のない軍備拡張競争に陥るだけであり、国民の福祉や医療や教育予算を切り捨てての軍事予算の拡大につながることも明らかである。国民生活の基本的権利を制限しての国権優先の軍拡は国民の幸福につながらない」として、「私たちは日本国憲法が定めている平和を求める国という国のあり方を堅持し、国際社会における独自の地位を示し続けていくことが望ましい」と述べている。
世界平和アピール七人委は、1955年、ノーベル賞を受賞した物理学者・湯川秀樹らにより、人道主義と平和主義に立つ不偏不党の知識人の集まりとして結成され、国際間の紛争は武力で解決してはならない、を原則に日本国憲法擁護、核兵器廃絶、世界平和実現などを目指して内外に向けアピールを発してきた。今回のアピールは153回目。
現在の委員は大石芳野(写真家)、小沼通二(物理学者)、池内了(宇宙物理学者)、池辺晋一郎(作曲家)、髙村薫(作家)、島薗進(上智大学教授・宗教学)の6氏。
緊急アピールの全文は次の通り。
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平和国家として歩む――軍事力増強とは異なる道を――
世界平和アピール七人委員会
連日のロシアによるウクライナ侵攻の報道に接し、それに中国の軍事大国化の動きを重ね合わせて、日本はこれらの軍事大国に侵略されてはならない、それを阻止するためには軍事力をいっそう強化しなければならない、との声が強まっている。さらには、専守防衛では心許ない、敵の基地や指揮系統までをも攻撃できる反撃能力を保持すべきで、必要ならば先制攻撃も否定しないとの論まで打ち出されている状況である。
このような軍事力強化の動向は、これまで築き上げてきた日本の平和路線の否定にとどまらず、かえって戦争を招きかねないことを強く銘記すべきである。他方、軍事力の増強は、際限のない軍備拡張競争に陥るだけであり、国民の福祉や医療や教育予算を切り捨てての軍事予算の拡大につながることも明らかである。国民生活の基本的権利を制限しての国権優先の軍拡は国民の幸福につながらない。
日本は日本国憲法の前文と第九条のおかげで世界平和を希求する国として国際社会の信頼を得てきた。国連の安全保障理事会の非常任理事国として12回も選出されたことは、多くの国々に世界平和を牽引する役割を期待されてのことであった。私たちは日本国憲法が定めている平和を求める国という国のあり方を堅持し、国際社会における独自の地位を示し続けていくことが望ましい。
戦争は殺戮と破壊を引き起こすのみであり、いったん戦争状態に入れば理性の声は吹き飛んでしまい止めようがなくなりかねない。これを思えば、戦争に巻き込まれない日本とすることこそが最も肝要であるのは論を俟たない。そのためには、いかなる覇権主義にもくみせず、またいかなる侵略の口実も与えないことであり、粘り強く対話と相互理解を積み重ねて平和的共存を追求し続けるべきである。