なお、冒頭に議論の対象になる河村さんの朝日新聞への投稿を紹介します。
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2022年4月6日 17:39 小西誠
河村さんは、軍隊内の「抗命権」について、ロシアとドイツ、日本の比較をされていて、以下のように書かれている。
「自衛隊法には『隊員は、その職務の遂行に当たっては、上官の職務上の命令に忠実に従わねばならない』とあるが、命令に従いたくない場合のことは書いていない」と。
この認識は、形式的にはその通りだが、根本では大きな間違いだ。
というのは、確かに自衛隊内では、現在「隊員が命令に忠実に従う」義務しか教えていないし「命令への絶対服従義務」としても教育されている。
しかし、かつての1960年代の自衛隊では、以下のように解説されていた( 陸幕監部第一部監修の『陸上自衛隊法令解説』(1967年10月1日、学陽書房発行)では以下のように明記)。
「第2章 命令服従
隊員は、職務の遂行に当たっては、上官の職務上の命令に忠実に従わねばならない。隊員が服従義務を有するのは職務上の命令であって職務以外の、また、命令を発する権限もない上官等の命令には従う必要はない。命令には適法な命令と違法な命令が考えられ、違法な命令でも原則として有効であって取り消されない限り隊員はこれに服従しなければならず、服従の結果なされた行為については、命令を発した上官が責任を負う。しかし、当該命令が『重大かつ明白にかしのある違法な場合は無効であって』隊員はこれに従う必要がないばかりでなく従うべきではなく、服従の結果なされた行為については、命令を発した上官のみならずこれに服従した隊員も責任を負わねばならない。」
つまり、この陸幕法令解説が定めるのは、「違法な命令」には従わねばならないが「重大かつ明白なかしがある場合の命令は無効」ということだ。
この「違法」か「重大な違法」か、という判断は難しいとも言えるが、例えば旧日本軍の極東軍事裁判で裁かれた「捕虜虐待」などは、国際法などに違反するものとして明白である。
さて、この解説の「違法」か「重大な違法」かの基準の有無は、今は問わないことにしよう。
ドイツの「抗命権」
この点では、河村さんが言うとおり、ドイツの「抗命権」規定は明確だ。
ドイツの軍人法第11条1項は、「兵士は上官に従わねばならない。兵士は、上官の命令を最善を尽くして完全に、誠実に、即座に遂行しなければならない」としているが、「命令が人間の尊厳を傷つける、あるいは任務外の目的のためになされた場合は、命令に従わなくても不服従にはあたらない。誤解が避けられない場合であり、兵士にとって知りうる状況ではその命令を法的救済によって抵抗することが期待できない場合にのみ、責任を負わない」としている。
また、2項では、「その命令によって犯罪を行うことになるような命令には従ってはならない。そのような命令に従った場合には、彼が犯罪を行うことになることを知っていたか、彼の知りうる状況でそれが明白であった場合にのみ、そのような命令に従った責任がある」して不服従の権利および義務を明記している。
このドイツ軍人法の規定は、決定的に重要である。自衛隊と異なり、命令が「違法か」「重大な違法か」を問うてはいない。いわば、兵士が個々にその判断を下すことは不可能であるから「命令が人間の尊厳を傷つける、あるいは任務外の目的のためになされた場合は、命令に従わなくても不服従にはあたらない」「犯罪を行うことになるような命令には従ってはならない」と、大まかな規定としているのだ!
さて、このような「抗命権」は、第2次世界大戦後、本来、国際法上で確立されているものだ。ナチスを裁いたニュルンベルク戦犯法廷では、「上官の命令による抗弁」は否認され、兵士には、その命令が明白に違法あるいは人道に反する場合については「抗命義務」があるとされたのだ。
また、日本の戦争責任を追求した東京裁判でも、被告人が政府または上官の命令に従って行動した行為は、責任を免れる理由にはならないとしたのである。つまり、個々の兵士には「違法な、あるいは人道に反する命令には従わない」権利と義務があるとされるようになったのである。
「抗命権」は国際法上の義務
このように、戦後の世界の全ての軍隊において、「抗命権」、兵士の違法命令への拒否権は、当然の権利となっている。この権利は、歴史的には、「戦艦ポチョムキンの反乱」以来、ロシア・ドイツの軍隊が幾多の闘いで獲得してきた「兵士の人権」である(ドイツ・キール軍港の水兵反乱)。
この兵士の「抗命権」を含む人権獲得の闘いこそ、戦争を根源で食い止め、終焉させる重要な「武器」だ。
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