2022年12月2日 5時00分朝日新聞
他国の領土に届く「敵基地攻撃能力」を持つことは、専守防衛を旨としてきた日本の防衛政策の大転換である。
相手に攻撃を思いとどまらせる「抑止力」になる確かな保証はなく、軍事力による対抗措置を招いて、かえって地域の緊張を高めるリスクもある。
先の戦争への反省を踏まえ、日本自身が脅威にはならないと堅持してきた方針を空洞化させることが、賢明だとは思えない。国民への説明も決定的に不足しており、このまま拙速に結論を出すことは許されない。
■歯止め策は示されず
自民、公明両党がきょう、敵基地攻撃能力の保有について、正式に合意する。政府が年内に改定する安保関連3文書に明記される。
名称は「反撃能力」だが、攻撃を受けた際の反攻に使われるだけではない。敵が攻撃に「着手」したと認定すれば使用可能だとされる。ただ、その見極めは難しく、国際法違反の先制攻撃になりかねない。
与党合意では、着手とみなす基準は示されず、「個別具体的に判断する」という。攻撃対象も「個別具体的に判断する」。自民党が政府に提言した「指揮統制機能」は挙げられなかったものの、軍事目標に限る考えも示されていない。これではとても歯止めにはならない。
日本に対するものだけでなく、日本と密接な関係にある他国への攻撃も、反撃対象となりうる。安倍政権下で成立した安保法制に基づき、日本の存立が脅かされる「存立危機事態」と認定された場合だ。安保条約を結ぶ米国が想定される。
そもそも日米同盟は、守りに徹する自衛隊が「盾」、打撃力を持つ米軍が「矛」という役割分担できた。自衛隊が矛の一端を担うことで、その関係に変化はないのか。日本が攻撃的な役割を強めることは、専守防衛から一層遠ざかることになる。(以下略)