~米中関係にからめ取られた日米同盟の呪縛から逃れるために~
若者の投票率が低いのは、若者が「何をしても変わらない」と社会を変えることを諦めているからと言われます。私も一時は安倍退陣に期待を持ったもののあとの菅政権―岸田政権は安倍政権とまったく変わらず、安倍政権が敷いたレールの上に立って原発推進や大軍拡などとんでもないことを実現させているので無力感さえ感じます。しかも、岸田政権は国民に説明をせず、アメリカ政府の言いなり。国民の生活や福祉をないがしろにし、災害復旧も放りなげて所得格差は広がるばかり。かつて「ジャパンアズナンバーワン」と誇示した日本の国際競争力は弱体化。このような中で若者が将来に期待を持てず、自暴自棄になる気持ちは十分に理解できます。
しかし、戦争や気候変動、貧困など地球規模の問題はたくさんあります。私たちは政府やマスコミの情報操作に流されて社会の閉塞状態を「仕方がない」と受け入れがちですが、国際情勢を冷静にみつめ、本来あるべき姿を考えれば、いま何をするべきか見えてくるのではないでしょうか。
平和外交と対話によって相互の信頼関係を築く玉城知事の訪中
玉城デニー沖縄県知事は今年7月3日に日本国際貿易促進協会の訪中団の一員として中国を訪問し、5日には河野洋平元衆院議長らとともに北京の人民大会堂で中国の李強首相と会談しました。これは沖縄県が掲げる平和構築と相互発展のための「地域外交」の一環で、知事は「確かな手応えがあった」と述べました。沖縄県は米軍基地の問題でアメリカ政府をはじめアメリカの政界や社会に対しても沖縄県の立場を説明し、基地負担軽減を訴えてきました。外交と軍事は国の専管事項と言われますが、民主主義社会では外交や軍事を含め国の方向性を決めるのは国民の権利です。民間や自治体が経済や文化面などで交流を深める外交は私たちの平和を守るためにも大変重要なことです。
今回の知事訪中に関して、残念ながら日本のマスコミ報道からは平和外交の視点は感じませんでした。知事訪中に先立って中国の習主席が述べた「琉球と中国の交流」に関する発言を「中国政府の日本に対する揺さぶり」と捉え、知事訪中はそれに利用されるという疑問さえありました。Webには習主席の発言を「台湾有事に日本が介入すれば沖縄を取るという『恫喝』」「黒を白と言う国とは仲良くする必要無し」とするコメントもありました。これらの発言は何回も流されるニュースや解説を根拠にしています。たとえば昼休みにテレビ朝日「大下容子ワイド! スクランブル」を観るといつも中国や北朝鮮、韓国、ロシア・ウクライナの話題です。それが視聴者に“日本に対する脅威”と“外国不信”を植え付けます。玉城知事および沖縄県民の平和を求める立場を理解せず、世界をすべて対立構造(専制国家対民主国家など)で理解させようとするのです。
私たちは政府の言論統制やマスコミの世論操作に洗脳されないように気をつけなければなりません。平和な社会を作るためにはどこの国とも「相互によく知り、認め合う」ことが大事で、国民同士が敬意を持ち、根気よく信頼を醸成する努力が必要です。平和な国際社会を維持するためには性悪説ではなく、性善説に立つべきだと考えます。そうすれば玉城知事が『環球時報』のインタビューで語った「平和外交と対話を通じて、緊張した情勢を緩和し、相互の信頼関係を築くことは、非常に重要なことだ」という姿勢を理解し、支持することができるでしょう。「ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会」はメルマガで「国同士の関係が冷え込む中で、中国との歴史・文化の関係が深い沖縄県知事が中国要人とエールを交換した意義は大きい」と知事訪中を高く評価しています。
アメリカの国益のために利用され続ける日本
国際情勢を考えるとき、私たちはどのような視点を持てばいいでしょうか。日本の国会やメディアで語られる国際情勢はほとんどが主要先進国のパワーゲームに関係し、日米の同盟関係が日本の国益になるという前提に立っています。はたしてそうでしょうか。
かつて日本の繊維製品や自動車、半導体、太陽パネルなどは世界を席巻するほどの技術力・生産力を持っていました。いまはどうでしょう。日米の貿易摩擦の歴史をひもといてみてください。アメリカは自国の産品を押しつけ、日本の輸出を抑える強引な“貿易戦争”をしかけました。その結果、日本の産業は衰退し、食糧自給力の低下を招きました。いま日本はアメリカの軍需産業のために兵器を爆買いさせられています。
“世界の警察国家”を謳ったアメリカは東西冷戦後に国力を落としましたが情報産業を中心とした産業構造の転換によって回復、アメリカの後を追う中国と経済・軍事・政治の面で“世界覇権競争”を展開しています。その中で今後も日米同盟が続くならば、日本はアメリカの国力を支え、アメリカを守るために利用されるだけでしょう。日米同盟に固執する限りアメリカの属国としての運命しかないように思います。
中国を超える軍事力で戦争を回避することは可能か
アメリカと台湾の関係を論じたアメリカにおける研究を見ると「米国が台湾防衛に乗り出すには、この地域の同盟国、とりわけ日本、オーストラリア、フィリピンからの支援が必要である」と書いてあります。しかし日本の関与は不確実で、それは「自衛以外のための武力行使を長年にわたって制限してきた日本の憲法によるところが大きい」ためとしていますが、「日本は、台湾防衛にとって最も重要な変数である」と言い、台湾防衛のためには日本に駐留する5万4千人の米軍部隊が日本国内から活動できる必要があるとしています。沖縄に本部を置く米国唯一の前方展開海兵遠征部隊やインド太平洋地域では米国最大の軍事施設である嘉手納基地の重要性も指摘。沖縄には戦闘機が無給油で台湾上空を飛行できる米空軍基地が2つあり「日本の基地を使わなければ、アメリカの戦闘機は効果的に戦闘に参加することができない」とも言います。そして、日米両国は情報・監視・偵察(ISR)能力、特に宇宙ベースの資産の統合を図るべきとし、日本が統合作戦本部の設置を決定したことを高く評価しています。
一方「米国は当面は抑止力の強化に重点を置くべきである」とも言っています。習近平主席に「攻撃は成功せず、コストが潜在的な利益をはるかに上回る」と確信させ、同時にワシントンが「台湾を中国から永久に切り離そうとは考えていない」と安心させることの双方に重点を置くべきだというのです。すなわち、軍事力による威嚇で戦争を抑止し、一方で中国の主張にも一部理解を示すというやり方です。それは「台湾海峡で紛争が起これば、サプライチェーンが破壊され、生産ラインは停止を余儀なくされ、株式市場は急落し、世界の海運を脅かすことによって、世界経済は深刻な恐慌に陥るだろう」という事態を避けたいからです。しかし、経済恐慌を避けたいのは本心だとしても軍事力で戦争を抑えられると本気で思っているのでしょうか。
アメリカは中国に強力な軍事力を見せつけるために琉球弧(南西諸島)を軍事基地と軍事訓練の島にすることを前提にしています。この研究は「日本の南西諸島で部隊をローテーションさせ、弾薬や重要物資の備蓄を行うべき」「日本国内の民間飛行場から作戦訓練を行うべき」などと提言しており、琉球弧を中心とする日本国内に犠牲を押しつけなければ戦争は避けられないという理屈になっています。
独立国として自立した外交を持たない日本政府
当然ながら中国を封じ込めるために琉球弧を軍事要塞化し、住民の自治と平和な生活を奪うことは許されません。「軍事抑止力論」は不信と欲望から成り立っているのでいつまで経っても真の平和は訪れず、戦争は偶発的に勃発する恐れがあります。本当の平和を実現するためにはアメリカの言いなりではなく、自立した政策を持つべきなのです。
アメリカが頼りにする同盟国・フィリピンはかつて米軍基地を追い出しました。今の大統領は米軍基地を受け入れていますが、フィリピンの外務長官は、米国が台湾防衛のための作戦に使用する武器を米軍基地に備蓄することを認めず、米軍がこれらの基地で給油、修理、再装填することを認めないことを明らかにしています。一方、日本政府は沖縄県民の要望に沿った交渉をアメリカ政府としようともしません。日米地位協定の改定にも消極的で、米軍機は東京都心を含め日本国中を我が物顔で飛んでいます。これでは独立国とは言えません。せめてフィリピンを見習うべきです。
日米同盟の呪縛から抜け出てアジア・太平洋諸国の立場で外交を
私たちは国際情勢を考えるとき、日本政府と同じように日米同盟が動かないものとして考えていないでしょうか。冷めた目で見ると、米中関係でアメリカ側にがっしりと組み込まれた日本の姿はあまりにも窮屈で滑稽です。世界はアメリカの思惑で動いているわけではありません。たとえばロシアのウクライナ侵攻にどう対処するかで「グローバルサウス(G77などを指す)」の動向が注目されていますが、これらの新興国や発展途上国は今後の国際情勢を占う上で重要な役割を持っています。日本政府はアメリカやEUの手先となってこれらの国々にウクライナ支持を働きかけていますが、第二次世界大戦の反省から平和憲法を持つ日本のあるべき立場は、日米同盟の呪縛から抜け出てグローバルサウスの国々を含む国際社会で停戦と平和の手段を模索することであるはずです。
私は、日本が国際社会で取るべき道の一つとして、アジア・太平洋地域諸国の一員として太平洋島嶼国に呼びかけ、核兵器禁止条約批准国を増やし、それを足がかりにこの地域の軍縮を進め、非武装を目指す牽引役を果たすことを提案します。
2020年10月発効の核兵器禁止条約はすでにパラオ、クック諸島、ニュージーランド、ニウエ、東ティモール、ツバル、ベトナムなどが批准しており、日本も早く署名・批准するべきです。アジア・太平洋地域の国としての立場から日本の平和戦略を再構築し、世界に示すことは日本の若者にも新しい希望を与えるはずです。
普天間基地の移転候補地となったグアムとテニアン、米海兵隊の移転も予定
“太平洋戦争”という名の下に激戦が繰り広げられた太平洋の島々はいまは多くが独立し、島嶼国家となっています。ミクロネシア連邦、マーシャル諸島共和国、パラオ共和国はアメリカと自由連合協定を結んでおり、独立国ではない島としてアメリカ自治領の北マリアナ諸島(サイパン島やテニアン島、ロタ島など)、アメリカ準州のグアム島、アメリカの州の一つであるハワイ諸島などがあります。マーシャルやグアム、ハワイには米軍基地があり、軍事的に複雑な国が多いですが、共通点として「海面上昇が進めば島が沈み、国がなくなる」という切実な危機感があり、国際会議で必死に気候変動対策を訴えています。
グアムでは沖縄の米海兵隊約4千人(当初予定約8千人)が2024年以降に移転する基地「キャンプ・ブラズ」の発足式が今年1月にありました。ここの隊舎建設や敷地造成などの費用は日本政府負担です。北マリアナ諸島には米軍基地はありませんが、テニアン島の3分の2を占める中北部は米軍管理地になっており、沖縄の米海兵隊のグアム移転に伴って米軍の軍事演習地にすることが決まっています。
民主党政権時代の2010年、普天間基地移転先としてグアム、テニアンが候補地になったことがありました。そのとき、グアム知事は受け入れに反対し、北マリアナ諸島連邦の知事は受け入れを表明、上院議会も誘致を決議しました。実現はしませんでしたが、テニアンの受け入れ意向は地元の貧困問題が背景にあるとも言われました。私は当時、国内であれ海外であれ島に基地を押しつけることに拒否感を覚えましたが、原発や軍事基地などの巨大迷惑施設を地方に押しつける社会構造はどこでも同じような要因があります。過去の戦争体験や現在のアメリカとの関係など太平洋の島々と沖縄は共通する問題を多く抱えています。日本政府に先行して民間や自治体の外交を重ねることも重要だと思います。そのとき、沖縄の平和に対するノウハウの蓄積は大きな力になるでしょう。沖縄県のアメリカや中国との外交実績も生きてきます。
気候変動対策、軍縮など人類共通の課題に取り組む外交ビジョンを
今の世界は戦争や経済競争、覇権争いなどによって地球の資源・資産を食い潰しています。私は、日本がアジア・太平洋諸国の一員という立場で平和憲法を高々と掲げ、人類の生存と平和、地球環境のために必死に努力することが現在の日本が抱えるさまざまな問題を克服する近道だと思います。私たちが腹をくくって真剣に取り組めば「何をしても変わらない」という閉塞状況から脱出し、明るい未来のために歩き出すことができると思うのです。