2022年8月2日 05:00琉球新報社説
戦後77年。これほど、戦争に対する不安が高まったことがあっただろうか。本社加盟の日本世論調査会が実施した平和に関する全国世論調査の結果、日本が今後、戦争をする可能性があるとした人は計48%に上った。
戦争回避に最も重要と思う手段は「平和に向け日本が外交に力を注ぐ」の32%が最多で、「戦争放棄を掲げた日本国憲法の順守」の24%と続く。
岸田文雄首相はロシアによるウクライナ侵攻など国際情勢の不安定化も踏まえ、防衛費大幅増を目指す。だが、防衛力強化より外交努力によって平和構築を重視する国民の意識が顕著に表れた。日本が果たす役割は、憲法の国際平和主義にのっとった自主外交の展開である。
日本が戦争をする最も可能性が高いと思う形は「他国同士の戦争に巻き込まれる」が50%と最も多かった。
「巻き込まれる」可能性を高めたのが、安倍政権時代の2015年に成立した安全保障関連法だ。歴代内閣が憲法違反として認めてこなかった集団的自衛権行使に道を開いた。日本が攻撃を受けていないのに、他国軍と共に軍事力を行使できるようになった。自衛隊による他国軍への後方支援を地球規模に広げ、専守防衛の国是を変質させた。
国民が戦争に不安を抱くのは、日本の政治家から敵基地攻撃能力や防衛費倍増など、平和憲法を逸脱する発言が相次いでいるからではないか。
例えば、安倍晋三元首相は昨年、「台湾有事は日本有事」と発言した。自らの発言に関連して、台湾有事が安全保障関連法に基づく重要影響事態や存立危機事態になる可能性もあると言及した。「米艦に攻撃があった時には、集団的自衛権の行使もできる存立危機事態になる可能性がある」と述べた。
岸田首相は台湾を念頭に「ウクライナは明日の東アジアかもしれない」と発言した。台湾や尖閣諸島で不測の事態が起きた時に沖縄を戦場にすることを前提にしている。無責任な発言だ。
今回の世論調査で、中国が10年以内に、台湾に軍事侵攻する可能性があるとした回答は「大いに」と「ある程度」を合わせ計75%に上った。
中国の台湾侵攻を巡っては、昨年、当時の米インド太平洋軍司令官が、6年以内に起きる可能性があるとの認識を示した。そこに安倍氏ら保守政治家の発言が加わり、台湾有事論が国内で広がった。日本有事と短絡的に結び付けず冷静な議論が求められる。
一方、戦争回避の手段として外交に次いで多かったのが憲法順守である。岸田首相をはじめ、自民党三役から国会発議を見据え、改憲論議の加速を促す発言が出ている。
数の力を背景にした発議は国民の意に沿わない。岸田政権は、今回の世論調査の結果を重く受け止めるべきだ。拙速な議論は許されず、国会での熟議が求められる。