※ブログ「やぽねしあのホクロ」より転載
2022年03月11日
私は「事実に即してのみ判断」する姿勢を“冷徹史観”と呼んでいます。その際、事実を曲げたり、故意に取捨選択したり無視することは許されません。事実に徹する姿勢はジャーナリズムの本質でもあります。しかし、今の日本のメディアは事実から目をそらし、ファクトチェックもしないまま一方的な情報を流し続けています。私は冷徹史観を、無罪を勝ち取った松川事件の元死刑囚である故・佐藤一さんから学びました。事実を冷徹に積み重ねながら真実に迫った佐藤さんが日本の報道や研究の状況を嘆き、叱咤激励していた姿を思い出します。
中国公船を挑発する“活動家”漁船と宣伝活動
今年1月31日、沖縄県石垣市の山中義隆市長は予定を公表しないまま東海大学の望星丸に乗り込んで尖閣諸島の海上視察を行いました。目的は周辺海域を漁業などで活用する上での実態調査の一環となっていますが、現職の地元自治体首長による尖閣視察は異例のことで、反対意見が強い中で強行し、中国側の反発を招く可能性もあると報道されています。尖閣諸島を巡る日中の緊張関係は琉球弧(南西諸島)の軍事要塞化(自衛隊基地設置・ミサイル配備など)の根拠の一つにされ、日本国民は「尖閣を中国にとられてもいいのか」の一言に黙らされてしまっているかのようです。しかし、現地の情勢は一般の日本国民が考えているような単純なものではありません。日本の中央メディアは「中国海警局の船の領海侵入」や「中国公船が日本の漁船を執拗に追尾」などのニュースをお決まりのように流し、視聴者の“愛国心”を煽っていますが、そのニュース源は何でしょうか。
尖閣海域で中国公船に追尾される漁船のニュースを調べると、その地元漁船は特定されていないか石垣市のN市議の名前が出てきます。 昨年9月1日放送の日本テレビ「news every.」でも紹介され、「尖閣諸島沖で漁を行っている、石垣市のN市議。今年5回目となる漁に出て接続海域に近づくと、中国海警の船が漁船を追尾し、そのまま日本の領海に侵入しました」という放送が流れました。 N市議は「これからも1カ月に2度は尖閣へ漁に出たい。尖閣での漁業が商売になると証明できれば、他の漁師も尖閣の海に戻ってくるはずだ」と語っています。N市議はYouTube に個人チャンネル(登録者数 約2万人)を開設しており、掲載された『【尖閣諸島】日本の海で釣りしてみた-後編』は120万回、『尖閣諸島で中国船に追い回されてみた!』は約3万回の視聴が記録されています。海上保安庁と中国海警局が至近距離でにらみ合う動画をはじめ、主要テレビ局にも積極的に動画を提供しており、私たちはそれを見ることが多いのです。2021年6月には尖閣諸島周辺海域からのライブ中継のために「尖閣諸島での漁」ライブ配信視聴権付きのクラウドファンディングを始めたところ3,201人から目標の400万円を大きく上回る約3,238万円の寄付金が集まったといいます。実は、先の中山市長の記事に「『尖閣で漁をする海人の会』は数年前から活動を休止している」とあるように、ほとんどの地元漁船は緊張関係に加えて燃料費や漁価との関係から採算が合わないために尖閣諸島周辺の海域には出漁していません。一方中国政府は、日本漁船は「実際は漁船ではなく右翼勢力のデモンストレーション船」とし、「活動家が島に上陸しないよう監視するのが追尾の理由」と日本側の「挑発」が原因との立場を非公式ながら説明してきたといいます。日本政府としては中国を刺激したくないというのが本音のようですが、下村博文・元文科相や稲田朋美・元防衛相ら自民党右派議員が尖閣海域で獲れた魚を食べながら「日本領海での漁業操業の正当性」を主張する動画がYouTube「日本文化チャンネル桜」で流されるなど日本国民の“反中感情”を煽る活動は活発に行われています。中国の王毅外相は記者発表で「正体不明の日本漁船が敏感な海域に侵入している」と発言したと報じられましたが、日本の中央メディアは“正体不明の日本漁船”の実態を知っていながらそれには触れません。報道スタッフの中には「日本側の挑発が追尾の原因という中国側の主張を書けば、中国の領海侵犯を追認した(正当性を認めた)と見なされかねない」と言う人もいます(岡田充『尖閣付近の「正体不明の漁船」とは何か。メディアが中国外相発言を追求しない理由』)。
長くなりましたが、「真実はディテールに宿る」と言います。事実を細かく正確に把握することも正しい判断には必要だと思いますのでお許しください。「デモリサTV」をはじめ「OurPlanet-TV」「レイバーネットTV」「デモクラシータイムス」などはN市議のチャンネルや「日本文化チャンネル桜」に負けないで、事実の発信と真実の追求にがんばって欲しいと思います。
軍事訓練を激化させる日米中心の中国包囲網
琉球弧の軍事要塞化は「尖閣諸島を守るため」ともいわれますが、本当にそうでしょうか。私にはアメリカと中国の世界覇権争い(軍事・経済・技術)の中でアメリカが中国を封じ込める政策の一環として琉球弧が利用されているように思えます。米海兵隊や自衛隊、ミサイルを琉球弧の島々に分散配置し、第1列島線上の島嶼が攻撃・占領されたらグアムやハワイなど第2列島線以東から米軍本体が島を奪還するという米軍の作戦は「日本を守る」ためではなく、「アメリカ本土を守る」ことが目的のように感じられます。
日米英仏蘭加豪新印の各国軍隊は「自由で開かれたインド太平洋」のスローガンを掲げてことあるごとに軍事演習を続けています。木元茂夫さんはfacebook(2021/10/18)で次のように指摘しています。
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■日米英艦隊の行動 9月14日~10月9日まで続く/マスコミは軍事行動の全体像を報道する義務がある
10月4日の中国軍機56機の台湾防空識別圏への進入ばかりが報道されている。この日は、10月2日3日と「沖縄南西海域」で17隻の大艦隊で「日米英蘭加新共同訓練」を行い、そのうちの空母クイーンエリザベス打撃群9隻と原子力空母カールビンソン打撃群3隻が「沖縄南西海域」から「南シナ海」へ移動した日です。中国側は空母部隊の台湾海峡通過を警戒していたのではと、私は思っています。防空識別圏の南西の端を飛行し、特に台湾に接近し威嚇したようなことはなかったと思います。
この間、日米英艦隊がやったことを整理すると
9月14日~15日 日英共同訓練 英原潜と海自潜水艦の訓練/訓練海域 「日本周辺」とだけ発表。
9月17日 横須賀基地所属イージス駆逐艦バリーが台湾海峡通過
9月18日~10月1日 日米共同訓練 原子力空母カールビンソン打撃群と海自の共同訓練。佐世保基地所属のイージス艦「ちょうかい」、横須賀基地所属のイージス艦「きりしま」、護衛艦「いかづち」、「やまぎり」が参加/訓練海域「沖縄南方」
9月24日 米軍のB-52戦略爆撃機1機と空自第9航空団F-15戦闘機2機と、米海兵隊のF-35B戦闘機2機が、要撃戦闘訓練/訓練空域「那覇北西の東シナ海上の空域」
9月27日 イギリスのフリゲート艦リッチモンドが台湾海峡通過
10月2日~3日 日米英蘭加新共同訓練/蘭はオランダ、加はカナダ、新はニュージーランドで原子力空母カールビンソンとレーガン、空母クイーンエリザベス、海自ヘリ空母「いせ」など17隻の訓練、動員した艦艇は1996年の台湾海峡危機を上回る。/訓練海域「沖縄南西」
10月4日~9日 日米英蘭加新共同訓練(第2波)、空母クイーンエリザベス打撃群と海自護衛艦「しらぬい」の共同訓練/訓練海域「南シナ海」、原子力空母カールビンソン打撃群も南シナ海に移動
これだけの軍事的圧力をかけ続けたわけです。これは防衛省が発表したものです。こうした情勢をなぜ、マスコミは正確に報道しないのでしょうか。
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「中国の脅威」を前提にしたこの軍事演習は、中国にはどのような脅威として映るでしょうか。ロシアがウクライナ国境で行った軍事演習とどう違うのでしょうか。木元さんが指摘するように双方の動向を伝える報道が必要です。日米軍を中心とする軍事演習は手元にある情報だけでも以下のように頻繁に行われています。私たちは中国軍の動きを報道で知りますが、自国の軍隊の訓練は問題視されないまま「反中意識」だけが植え付けられていることを認識する必要があります。
・9月15日~11月下旬 自衛隊が全国の全ての部隊を対象にした大規模な実動演習/1993年以来28年ぶりで、隊員約10万人が参加
・11月10日~12日 日豪共同訓練
・11月19日~30日 南西諸島を含む全国で自衛隊統合演習/米海兵隊の輸送機とミサイル部隊が参加する訓練も
・11月21日~ 「海上自衛隊演習」(米海軍は“ANNUALEX2021”)
・12月4日~ 陸自の南西諸島防衛強化と米海兵隊の作戦構想「遠征前方基地作戦(EABO)」の連携による撃退訓練
日中両政府は積み上げてきた外交成果に基づいた問題解決を
国交正常化から50年建ち、中国に進出している日系企業は2020年で約1万3,600社あるそうです。日中関係を専門とする泉川友樹さん(沖縄大学地域研究所特別研究員)は2月1日、沖縄県議会に対して
「日本国政府に対し日中共同声明等の日中両国が取り交わした文書の諸原則の遵守及び両国間の問題解決を要請する意見書の可決を求める請願」
を提出しました。今年は沖縄が日本復帰50周年を迎える年でもあります。泉川さんの請願の趣旨は「1972年に日中両政府は<日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明(日中共同声明)>によって国交正常化を実現し、日中平和友好条約では、<両国間における主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等及び互恵並びに平和共存の諸原則の基礎の上に、両国間の恒久的な平和友好関係を発展させるものとする>などと定めた。そして<すべての紛争を平和的手段により解決し、武力又は武力による威嚇に訴えないこと>を確認した。また、尖閣諸島をめぐる問題については2014年に両国間で<日中関係の改善に向けた話合い>が発表され、<異なる見解を相互に認識しつつも、不測の事態の発生を回避すること>で意見の一致を見た。一方的主張ではなく両国政府がこれまで積み上げてきた外交の成果に基づき問題解決を図るべきであり、沖縄県議会は日本国政府に対し、<日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明><日本国と中華人民共和国との間の平和友好条約><平和と発展のための友好協力パートナーシップの構築に関する日中共同宣言><戦略的互恵関係の包括的推進に関する日中共同声明>及び<日中関係の改善に向けた話合い>等、我が国と中華人民共和国政府の間で取り交わされた文書の諸原則を遵守し、両国間の問題解決を図ることを要請する意見書を可決すること、を請願する」というものです。私は、この泉川さんの請願内容が日中関係の根幹だと確信し、支持します。
対話による平和を求め「ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会」が発足
1月31日には「ノーモア沖縄戦 命どぅ宝(ヌチドゥタカラ)の会」(共同代表:石原昌家、具志堅隆松、ダグラス・ラミス、宮城晴美、山城博治)が結成されました。沖縄の島々(与那国島、石垣島、宮古島、沖縄島)や奄美大島、馬毛島など「南西諸島」と総称される島々を戦場にしてはならないとの強い思いから、日米両政府の拙速な軍事行動を止め、対話による平和を求める世論を作り出し、その力で無謀な戦争を止めさせようというものです。全国に向けて賛同者・呼びかけ人を募集しています。平和を求める多くの人々が賛同し、戦争を止める力になることを期待します。