【社説】防衛予算 見過ごせぬ説明なき拡充
2020/12/24 信濃毎日新聞
盾と矛との境界を曖昧にしたまま、軍備が増強されていく。
2021年度予算案に計上された防衛費は5兆3422億円で、9年続けて過去最高を更新した。項目を見れば、今後さらに膨らむ懸念が高まる。
相手のミサイル拠点を先に破壊する「敵基地攻撃能力」に転用可能な装備の導入も加速する。中国や北朝鮮、ロシアの脅威を理由に防衛政策を独り歩きさせることは認められない。
議論と説明を尽くすよう、菅義偉政権に強く求める。各党は、一つ一つの政策の是非を厳しく見極めてもらいたい。
菅政権は、断念した地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の代替策として、イージス艦2隻の新造を決めた。予算案には調査費17億円を盛っている。
導入だけで4800億~5千億円以上かかる。運用実績の乏しい地上用レーダーを搭載する大型の船で、日本独自の設計になるという。工期は最短で8年。そのころのミサイル技術に、どこまで対応できるか定かでない。
政府は地上イージスの技術面の不備を見抜けなかった。見通しの甘さは、巡航ミサイルを搭載するF15戦闘機の改修費が想定を大きく超えた点にも表れた。計画は滞り、経費を計上できずにいる。
F2戦闘機の後継機の開発には576億円を充てた。総額で2兆円超を投じる。無人機が台頭する中、有用性は疑わしい。
相手国の射程圏外から攻撃できる「スタンド・オフ・ミサイル」の開発費には335億円を割いている。探知されにくいステルス性能と主翼を備え、陸海空いずれからも発射できるようにする。新造するイージス艦2隻への搭載も検討し始めている。
既に購入を決めている3種の巡航ミサイルや、研究開発中の島嶼(とうしょ)防衛用の対艦誘導弾、高速滑空弾、極超音速誘導弾とともに、敵基地攻撃能力に転用できる。
菅政権は攻撃能力保有の議論を来年も続けるとしたはずだ。国民に何ら説明せず、装備を先行させる現状は見過ごせない。
自衛隊にサイバー防衛隊を新設する費用、小型人工衛星群の調査費も盛っている。軍事の領域が際限なく広がりつつある。財政難にあえぎ、人口が減る日本にとって現実的な選択とは思えない。
衝突を避ける独自の外交構想の構築にこそ、資力を注ぐ必要がある。煮詰めるべきは、専守防衛のための「最低限の装備」にいかにとどめるか、であるはずだ。