第1列島線 米軍ミサイル攻撃網
自衛隊動員が前提
対中国念頭に日米軍事同盟強化
米国と中国という二つの覇権主義大国による対立が激化する中、4月16日の日米首脳会談では、「対中国」を念頭に日米軍事同盟の「一層の強化」が確認されました。米軍は既に、九州沖から琉球諸島、南シナ海にいたる「第1列島線」に、日米一体のミサイル攻撃網を想定していることが判明しました。このまま米中軍事対立に巻き込まれ、国土を戦場にするのか。日本の進路が問われます。
図:第1・第2列島線と米「太平洋抑止イニシアチブ」
「太平洋抑止イニシアチブ」(PDI)と銘打った基金が、今年1月に米議会で成立した2021年度国防権限法に盛り込まれました。その狙いは、「対中国」を想定した米軍の能力向上と同盟網の強化にあります。米インド太平洋軍は22~27年度の6年間で約274億ドル(約3兆円)を要求しています。
同軍が昨年、公表したPDIの予算要求資料は、「有効な抑止がなければ、中国やロシアが地域における米国の権益を奪い取るだろう」と指摘。「優勢を取り戻す」と表明し、あからさまな覇権争いを宣言しています。
具体策の第1に掲げているのが、「第1列島線」への「残存性の高い精密打撃網」の配備です。巡航ミサイル・トマホーク(海軍)やスタンドオフミサイル(射程延伸型、空軍)、高機動ロケット砲システム(HIMARS、海兵隊)などをあげ、全軍で長距離精密兵器やレーダー網の強化などを進めるとしています。
さらに、将来的にはグアムなど「第2列島線」にも、第1列島線内を攻撃する長距離ミサイルを配備するとしています。
重大なのは、第1列島線の「精密打撃網」は、「増強された同盟国の地上配備兵器の参加」が前提とされていることです。南西諸島への配備が進んでいる自衛隊のミサイル部隊の動員を想定していることは明らかです。
防衛省は奄美、宮古、石垣に陸自ミサイル部隊配備を進め、沖縄本島への配備も検討。射程を大幅に延ばした12式地対艦誘導弾をはじめ、極超音速誘導弾や高速滑空弾など最新鋭の長距離ミサイル開発に乗り出し、沖縄などへの配備を狙っています。さらに、22年度から空自へのスタンドオフミサイル(JSM)の配備が始まります。
こうした憲法違反の敵基地攻撃能力が、米軍の対中軍事戦略に組み込まれようとしているのです。
台湾海峡問題への覚悟迫る米国
安保法制廃止いよいよ重要
米インド太平洋軍「太平洋抑止イニシアチブ」の予算要求資料は、「第1列島線」にミサイル攻撃網を配備する目的について、「接近阻止・領域拒否(A2AD)能力を覆す」ためのものだと説明しています。
ミサイル網の目的
A2ADとは、ミサイルや戦闘機、潜水艦、電子妨害網などを重点配備し、そこから先への敵の侵入を阻止する能力です。
米国防総省の「2020年版中国軍事力報告」は、「台湾有事」(中国による台湾の軍事侵攻)が発生した場合、中国は「いかなる第三者の侵攻も打ち破る能力を開発している」と指摘。「米国の防衛計画者は、こうした能力を“A2AD”と呼んでいる」と述べています。さらに、「中国のA2AD能力は、第1列島線において最も堅固である」としています。
つまり、A2ADとは第一列島線、とりわけ台湾への接近を阻止する能力であるというのが米側の見解です。
こうした能力を構築するきっかけになったのは、第3次台湾海峡危機(1995年7月~96年3月)です。中国は初の台湾総統選を妨害するため、連日、台湾近海にミサイルを発射。これに対して米軍は同年3月、2個空母戦闘群や爆撃機を台湾海峡に急派し、中国を威圧しました。
米国は54年から台湾と軍事同盟を結び、中国と国交を正常化して同盟を破棄した後も、国内法である「台湾関係法」に基づき、関与を継続しています。
米軍の介入は中国に衝撃を与え、台湾海峡への接近を阻止するための戦力増強が図られました。90年代後半から「空母キラー」である潜水艦を大増強。98年には自前の空母保有に着手しています。
今日、米軍が空母を台湾海峡に接近させるのは容易ではありません。そのため、第1列島線の外から攻撃可能な長距離ミサイル網を整備しているのです。
日本も参戦可能に
第3次台湾海峡危機は日本政府にも波紋を広げました。日米安保条約に基づく共同作戦の検討に入るべきだとの意見(96年3月15日、梶山静六官房長官)も出されましたが、海上自衛隊元幹部は、当時の自衛隊は法的にも能力面でも限界があり、「同僚はみんな黙っていた。話題にすることを避けていた」と証言します。
しかし、今は全く異なります。1面報道のように、既に日本は地上・洋上・航空いずれからも攻撃可能な長距離巡航ミサイルやF35ステルス戦闘機など、中国のA2AD網に対抗しうる敵基地攻撃能力の導入に着手しています。
さらに、米軍の海外での戦争への自衛隊の参戦を目的とした安保法制=戦争法があります。
岸信夫防衛相は3月22日の記者会見で、台湾海峡問題について問われ、「防衛省・自衛隊としても、あらゆる事態に備えて、わが国の法令の範囲内で適切に対応できるように、不断に検討をしている」と述べました。
日本共産党の穀田恵二議員は4月21日の衆院外務委員会で、「検討」している法令に、安保法制の一環である(1)重要影響事態法(米軍への後方支援)(2)集団的自衛権の発動要件である「存立危機事態」を定めた事態対処法―が含まれるか質問。中山泰秀防衛副大臣は「含まれている」と認めました。
共同声明の危険性
最終的に、日本が台湾海峡問題への覚悟を迫られたのが、4月16日の菅義偉首相とバイデン米大統領の日米首脳会談です。共同声明は「台湾海峡の平和と安定の重要性」に言及。1969年11月の佐藤・ニクソン共同声明以来、52年ぶりに日米首脳の共同文書に「台湾」を明記したのです。
69年の共同声明は、72年5月に予定されていた沖縄の施政権返還後も、在沖縄米軍基地から台湾に自由出撃できることを事実上、容認したものですが、今回の共同声明は、それにとどまりません。
声明は「日本は…自らの防衛力を強化することを決意した」と明記。「対中国」の文脈で大軍拡・能力強化を誓約したのです。安保法制に基づいて自衛隊が参戦する、過去最大規模の軍事費をさらに増やす―そうした可能性を含んだ今回の共同声明は、より危険な内容になっています。
大軍拡ストップ、安保法制廃止がいよいよ重要になっています。