新START「失効あり得る」 ロシアとの核軍縮交渉担う米高官に聞く
2020年9月18日 5時00分朝日デジタル
トランプ米政権でロシアとの核軍縮交渉を担うビリングスリー大統領特使が朝日新聞の電話インタビューに応じ、来年2月に期限が切れる米ロ間の新戦略兵器削減条約(新START)について「現在の核兵器の課題に対応しておらず、将来に向けて間違った枠組みだ」と述べた。また、ロシアに対しては全ての核弾頭を対象とし、中国も加わった条約の枠組みを求めているとした上で、合意ができなければ新STARTの失効もあり得る、との見方を示した。
■中国不在の枠組み「間違い」
新STARTは、米ロ間に残る唯一の核軍縮条約。ビリングスリー氏は、ロシアが短・中距離の核弾頭ミサイルを増強し、中国も核兵器を増やしているが、これらの動きが条約によって規制されていないと指摘。ロシアに対して、全ての核弾頭の制限や検証枠組みの改善を要求し、中国を将来の新条約に参加させることも求めている、と語った。
米国はこれまでも中国を交えた交渉を要求してきたが、米ロに核戦力で劣る中国は拒否。ロシアは無条件での5年延長を求めている。ビリングスリー氏は「米ロが正しい枠組みに合意できれば、延長できる。最終的には中国も入れる必要がある」とする一方、ロシアが合意しない場合の失効は「十分にあり得る」とした。
延長をめぐる米ロ間の実務者協議は難航している。ただ、ビリングスリー氏は「核軍縮の合意はこれまでも常に、大統領によってなされてきた。(延長できる場合は)トランプ氏とロシアのプーチン大統領が共同で合意を発表すると考えるのが自然で、直接対面してできるのなら望ましい」と発言。11月の米大統領選前の合意もありえ、「ロシア次第だ」と語った。
新STARTはオバマ政権が締結し、大統領選をトランプ氏と争う民主党のバイデン前副大統領は、就任すれば延長すると明言している。ビリングスリー氏は「交渉には全く影響しない」と述べ、「10年前に『オバマ・バイデン条約』として考案された新STARTは現在の脅威に適していない。中国は今後数年で、1千発もの核弾頭配備を検討している」と強調した。
■中距離ミサイル配備 「日本と議論、用意」
トランプ米政権の核軍縮交渉トップのビリングスリー大統領特使が、新たな核兵器規制の枠組みの必要性を強調する背景には、中国のミサイル戦力増強への強い危機感がある。朝日新聞とのインタビューでは、アジアに中距離ミサイルを配備する計画について「中国の軍事増強がアジア地域を完全に不安定にしないよう、日本政府とも緊密に連携をしていく」と述べた。
ビリングスリー氏は、中国が巡航ミサイルや弾道ミサイルなどの開発・配備を加速させているとの認識を示し、日本など同盟国と連携し、対抗する重要性を強調。音速の5倍超で飛ぶ極超音速滑空ミサイルにも言及し、「脅威となる兵器を中国共産党が使えないようにする」と述べた。
射程500~5500キロの地上配備型の中距離ミサイル保有を米ロに禁じてきた中距離核戦力(INF)全廃条約が昨年8月に失効して以来、米軍は中距離ミサイルの開発を加速し、核を搭載しない形でのアジアへの配備を模索している。ビリングスリー氏は、地上配備型巡航ミサイルなどの開発は「急速に進んでいる」と話した。
ビリングスリー氏はまた、アジアに展開する米軍には今後数年以内に中距離ミサイルが配備される見通しを示した。日本への配備の可能性については「日本政府と議論する用意がある」と述べ、候補地の一つであることを示唆した。(ワシントン=渡辺丘)
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<新戦略兵器削減条約(新START)> 米国とロシアが保有する戦略核兵器を削減する条約。米ロが配備する戦略核弾頭を各1550発、大陸間弾道ミサイルなどの運搬手段は上限を800と定めた。2011年2月に発効し、期限は10年だが、両国が合意すれば延長が可能だ。