2022年2月17日 05時00分 中日新聞
警察庁に直轄の「サイバー特別捜査隊」などを新設する警察法改正案が国会提出された。国際捜査の連携強化が狙いだが、中央集権的な警察を否定した戦後の警察行政の大転換でもある。懸念を残さぬよう徹底的な審議が必要だ。
改正案では、生活安全局や警備局などのサイバー犯罪部門を「サイバー警察局」に集約。さらに捜索や逮捕などの権限を持つ二百人規模のサイバー特別捜査隊を設ける。警察庁が直接、逮捕などの権限を持つことは戦後初めてだ。
国境を越えたサイバー犯罪は増え続けている。昨年十月、徳島県の公立病院はシステムのデータを暗号化するランサムウエアの攻撃を受けて電子カルテが閲覧できなくなり、国際的なハッカー集団が金銭を要求する脅迫文を送り付けた。こうした事件の背後に国家の影が透ける例も少なくない。
欧米では捜査の国際協力が進んでいるが、日本では都道府県警が捜査主体のため、国際的な情報交換などに手間取ることがあるという。改正案はその克服が狙いだ。
ただ、改正案は戦後の警察行政の土台を揺るがす内容でもある。戦前の内務省を頂点とした中央集権的な警察組織による人権侵害の反省に立ち、犯罪捜査は戦後、都道府県警の役割とし、警察庁は指揮や監督に徹してきたからだ。
法案には数々の疑問も生じている。警察庁の指揮の下、二〇一三年には都道府県警に「サイバー攻撃特別捜査隊」が設けられたが、その態勢の何が不十分で、なぜ警察庁の直轄部隊が必要なのか。
捜査対象についても「国や地方公共団体の重要な情報の管理」や「国民生活及び経済活動の基盤」に重大な支障が生じる場合、「対処に高度な技術を要する」ケースなどが挙げられているが、拡大解釈の余地は残る。(以下略)