毎日新聞の2019年12月26日朝刊の「月刊・時論フォーラム」欄に<南西諸島の軍事化>に関する明治学院大教授(社会学)・石原俊の文章が掲載されました。
前書きには「中国の南洋進出を背景に、日本政府は奄美など南西諸島で自衛隊基地を拡張しつつある。石原俊氏は安全保障の整備の必要性を指摘しつつ、限られた地域に「構造的差別」を強いることに疑義を呈した」とあります。
以下、(一部抜粋)を紹介します。全文は毎日新聞をお読みください。
◆南西諸島の軍事化
構造的差別ここでも 石原俊
(冒頭略)
自衛隊基地が拡張
戦後75年を前にした12月20日、副防衛相が鹿児島県庁と西之表市役所を訪れ、同市内の無人島・馬毛(まげ)島の地権者からの土地買収が進んだため、自衛隊馬毛島基地(仮称)を整備する予定だと通告した。馬毛島には、東京都の硫黄島で28年間も「暫定」実施されてきた米軍の空母艦載機陸上離着陸訓練(FCLP)が移転される予定だ。だが、米軍FCLPの実施期間は年間1カ月弱であり、同島は通常、自衛隊の各種訓練用基地として活用される。ヘリ搭載護衛艦の「空母」化を進めている自衛隊は、同島でF35B戦闘機の陸上離着陸訓練(事実上のFCLP)の実施も検討している。また隣の種子島では、すでに自衛隊と米海兵隊の共同訓練が行われている。
今、馬毛島が属する大隅諸島から、奄美諸島、沖縄諸島を経て、宮古諸島、八重山諸島に至る南西諸島全体にわたって、自衛隊基地が急激に拡張されつつある。2016年に国内最西端の与那国島に陸自駐屯地が開設され沿岸監視隊が配備されたのを皮切りに、この1年間だけで、奄美大島(2カ所)と宮古島に陸自駐屯地が新設され、石垣島でも陸自駐屯地が着工された。奄美には中国軍を仮想敵とする警備部隊と地対空・地対艦ミサイル部隊が展開しており、今後は宮古や石垣にも配備される。それぞれ、ミサイル用弾薬庫も併設される予定だ。まさに基地の新設ラッシュといえる状態である。
(中略)
これは既視感のある構図だ。日本が沖縄や小笠原の米軍への貸与と引き換えに主権を回復した1950年代以後、本土各地で激しい米軍基地への反対運動が巻き起こり、それは「60年安保闘争」「70年安保闘争」の下地にもなった。こうした反米世論に対応して、日米両政府は本土の米軍施設の整理縮小を進めていく。その結果、皮肉にも72年の沖縄返還前後の時期に、日本の米軍基地面積の7割以上が沖縄に集中する現状が完成する。かたや本土では、冷戦の軍事的前線への痛覚が失われていった。
そして同時期の本土では、経済的停滞と人口流出に苦しむ海村地域に、補助金と引き換えに原発が次々と新設されていった。結果として11年の福島第1原発事故は、核=放射性物質による公害を白日の下にさらした。しかし、これを機に大都市圏住民は、原発設置のために地域社会が抱えてきたあつれきや抑圧について、いくらかの痛覚を養うことができただろうか。
(以下略)