--------------↓軍学共同反対連絡会幹事会の緊急声明↓--------------
◆科学・技術と企業の国家管理・統制強化を目論む「経済安保法案」に反対する緊急声明
白紙委任で軍事力増強に従わせる法案
「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律案」(以下、経済安保法案と略)は2月25日に閣議決定され、衆議院内閣委員会で審議の上、4月7日に本会議で可決され、衆議院を通過しました(共産、れいわは反対)。その後、4月13日に参議院で審議入りし、21日には参考人質疑が予定され、政府は今月中の成立を図ろうとしています 。
この法案は骨組みと罰則だけを決め、具体的内容は法案成立後に1つの基本方針、4つの基本的事項、138件の政省令で決めるという白紙委任となっており、国会軽視、議会制民主主義の軽視が著しい法案です。その上、経済施策を装って企業ばかりでなく科学者・技術者を罰則を伴った守秘義務で囲い込み、軍事力増強に従わせる法案でもあります。
企業活動の国家管理・統制の危険
プーチン政権によるウクライナへの侵略戦争を受けての「戦時」ムードの中で、経済という名の「武器」強化のために、特定重要物資の安定供給(サプライチェーン)の確保、特定社会基盤の安定的供給(基幹インフラ)の確保のために、関係事業者から設備や設備投資にかかわる事業計画書等を事前に提出させる法案です。
このことにより特定国からの輸出入を規制したり、備蓄を指示したりすることで、従来からの自由貿易主義、国際協調主義、国際的商習慣が破壊され、保護貿易主義となり、アジアの国際緊張を高める危険性があります。しかも、ここでは特定重要物資が何であるのか(レアアース、海洋資源、半導体??……)
を示さず、政府が状況に応じて決めることとなっており、事業者への不安や負担が大きくなります。時には政府からの大きな支援が得られ、企業が国家に忖度し、管理・統制に縛られる危険性が大となります。
特定社会基盤には電気、ガス、石油、水道、電気通信、放送、郵便、金融、クレジットカード、鉄道、貨物自動車運送、外航貨物、航空、空港など14業種が指定されています。関係する事業者の規模は大企業だけと述べてはいますが、サイバー攻撃などは中小企業が狙われ、大企業に波及する例はいくらでもあります。営業の秘密やノウハウなどが国家によって把握され、経営の非効率化を生じ、国家による管理・統制が強まることが予想されます。
科学・技術の軍事動員の危険性
特定重要技術の開発にはプロジェクトごとに協議会が設置され、政府が伴走支援し、一気呵成に社会実装まで進めていきます。それが特定重要技術(例:宇宙、海洋、量子、AI、バイオ、サイバーセキュリティなど)の場合には罰則付きの守秘義務が課せられ、プロジェクトからの離脱が困難です。ユネスコの「科学及び科学研究者に関する勧告」にある「軍民両用に当たる場合には、科学研究者は、良心に従って当該事業から身を引く権利を有し、並びにこれらの懸念について自由に意見を表明し、及び報告する権利及び責任を有する」にどう対処するのかも不明です。
特許出願の非公開制度の導入は、平和憲法になじまないとして廃止された戦前の秘密特許制度の復活といえ、秘密保護法とあいまって、研究の自由、研究発表の自由を侵害するものです。
危惧される主な問題点
1)肝心かなめの「経済安全保障」の定義さえも定めないこの法案は、経済政策の顔をした国家安全保障戦略、国防の一部をなすもので、研究者や企業を軍事研究・軍事生産に囲い込む法案です。
2)有事に備えるといいつつ、有事についての定義がなく、国家及び国民の安全を害する事態、特定妨害行為が行われた時などを有事とするという、有事を恣意的に運用可能にしています。
3)「外部からの攻撃」の「外部」の定義が不明です。
4)「秘密」の定義もなく、官への忖度や癒着、あるいは従属を生み出します。
恣意的で過剰な取り締まりが危惧されます。
5)秘密指定された研究者は、研究発表の自由を奪われ社会実装まで強制されます。軍事研究にかかわることを拒否して、協議会から離脱できるのか否かが不明です。
6)シンクタンクによる先端技術研究開発政策は、防衛技術や企業が要望する先端技術開発という課題解決型の技術開発に特化したもので、予算がその分野に集中投資されれば他分野の予算が逼迫します。また、シンクタンクを法的に位置づけることにより、大学等・研究諸機関、日本学術会議すらその下におかれ管理統制される危険があります。さらに、優秀な人材をシンクタンクに集め、創造的な研究の政策的リードを図ろうとしていますが、問題解決型技術開発の目利きを期待するシンクタンクからは、防衛分野や政財界がよろこぶ分野の研究の一つ二つは生まれても、創造的な研究の政策的リードは困難といえます。
シンクタンクを、学位を出せる組織にという意見さえありますが、高等教育への介入の危険をもたらします。
7)特定重要技術の開発支援(今年度はとりあえず5千億円)の投資は、基盤的基礎研究費を圧迫し、予算が回らず、研究の多様性が保証されず、創造的研究を逼塞させる危険性があります。
8)基礎科学研究情報、技術開発情報の政府AIによる個人研究者情報の管理統制の恐れがあります。
9)協議会が支援伴走する一気呵成の開発研究による社会実装は、研究者を消耗させることになります。
10)プロジェクトごとに協議会(関係大臣、行政機関の長、研究代表者、シンクタンクで構成)を組織するときは内閣総理大臣と協議することとなっていますが、研究開発推進に有用な情報の共有、社会実装に向けた制度面の協力のためにこのような大げさな組織を設置する理由が不明です。
11)セキュリティ・クリアランスは秘密保護法とあいまって基本的人権の侵害、監視社会化が危惧されます。
12)特許非公開にかかわる研究発表の差し止めは技術開発の停滞のみならず、研究交流への規制、研究の自由の侵害、個人情報の収集管理及び統制を引き起こします。発明者の権利がどの程度保障されるのかも不明です。
以上の問題点のあまりにも大きいことを踏まえ、経済安全保障法案に反対の意思を表明いたします。
2022年4月17日
軍学共同研究反対連絡会幹事会