私たちは、本日、土地規制法対策沖縄弁護団を結成しました。
土地規制法(正式名称:重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律)は、内閣総理大臣が、自衛隊や米軍施設等の「重要施設」の周辺や国境離島を注視区域・特別注視区域として指定し、これらの区域内の土地や建物の所有者や利用者を調査して日常的に監視し、機能阻害行為をするおそれがあるとされればそれを罰則付きで禁止するものです。調査と監視の対象は区域内の土地や建物の所有者・利用者には限られません。それらの人と何らかのつながりがある人も「その他の関係者」として調査と監視の対象となり、政府から区域内の所有者や利用者の情報を提供するよう求められ、それに従わないと処罰されます。そしてどのようなつながりがあれば「その他の関係者」になるのかどうかは明らかでなく、政府の都合で決まります。まさに密告の奨励であり、人間関係も疑心暗鬼に満ちたものになるでしょう。さらに、政府が調査する事項も限定はなく、「土地利用調査のため必要」であるとされれば思想信条に及ぶ事項の調査も禁じられていません、さらには、調査方法についても、それを明らかにすれば「手の内を見せてしまい対抗手段を講じられてしまう」という理由をつけて秘密にしたままです。こうして、警備公安警察や公安調査庁、自衛隊情報保全隊などが行っている尾行や張り込み、あるいはスパイなどの協力者からの情報収集、さらには電話や電子メール、SNSでのやりとりの盗聴などもこれまで以上に行われることになるでしょう。また、政府が決めた基本方針でも何が機能阻害行為となるのか例示されるだけで具体的に明示されることはなく、逆に例示行為に該当しなくても機能阻害行為となると明言されるなど、実際に何を機能阻害行為として禁止するかどうかも政府の都合でその都度決められます。
このように、土地規制法は、憲法で保障された思想信条の自由や表現の自由、さらには財産権を侵害するものであり、法治主義や罪刑法定主義にも違反する違憲の法律です。そして、特定秘密保護法、共謀罪、盗聴法、安保法制、あるいはドローン規制法や経済安保法など、「戦争できる国づくり」の一環の法律です。
政府は、土地規制法の廃止を求め、あるいは少なくとも問題が解消されるまではその施行を延期せよという多くの声を無視し、本年9月に全面施行しました。沖縄県は、本年9月7日、全国の都道府県で唯一、政府に対し、土地規制法の基本方針案について、区域指定にあたっては関係地方公共団体の意見を聴取するだけでなく尊重すべきであることや、機能阻害行為は対象施設毎に明確に定めるべきだという意見を述べました。ところが政府は、沖縄県の意見を採用することはありませんでした。そして本年10月には最初の区域指定候補地58カ所を選定し、本年中には区域指定する方針であり、さらに今後、順次600カ所以上に及ぶ区域指定を行うことにしています。
土地規制法は昨年(2021年)の通常国会で衆参合せて僅か26時間しか審議されず、国会最終日に日にちを跨いで強行裁決されました。それは政府与党が、防衛施設周辺や国境離島の土地や建物の利用が安全保障上重大な危険に晒されているので緊急に成立させなければならないとしたことにあります。那覇市にある海上保安庁第11管区や尖閣諸島警護の最重要施設である石垣海上保安部は特別注視区域となると明言されていました。また、台湾有事が煽られ、自衛隊の南西シフトにより馬毛、奄美、沖縄、宮古、石垣、与那国の琉球弧が急速にミサイル基地化・軍事要塞化され、さらには民間業者や民間施設を動員した日米合同軍事演習が実施されるなど、戦争の危機が現実化されています。各地でのミサイル基地反対運動、そして沖縄県民の明確な辺野古新基地建設反対の民意と運動、あるいは嘉手納や普天間での基地監視活動などは、政府にとっては邪魔な存在であり、それを弾圧し排除するため、土地規制法が活用されることになります。したがって、沖縄や琉球弧の島々は最初に区域指定されると予想されていました。ところが、先に述べた最初の区域指定候補地には沖縄やこれらの地域は入りませんでした。これは土地規制法の成立を急いだ政府与党の姿勢とは矛盾するものです。なぜか。それは、敢えて政府与党の言う安全保障上緊急を要する区域を外し、区域指定に対する反対運動が起こりにくい地域からまず指定していくことによって、反対運動の「外堀を埋める」という姑息な政治的意図によるものとしか考えられません。
この土地規制法の目的からすれば、いずれ沖縄県内の広範な地域が区域指定されるとともに、指定区域内に居住しているか否かに関わらず多くの県民・市民が監視され、基地反対運動や基地監視活動の萎縮を招き、そして弾圧が実行されるでしょう。
私たちは、土地規制法の違憲性を訴え続け、土地規制法の廃止に向けた運動を行うことはもとより、それに至るまでの間も運動に対する弾圧に抗う活動を行うため、弁護団を結成しました。
私たちは、憲法の平和主義や基本的人権、国民主権を擁護する法律専門家として、今後、土地規制法についての学習会の開催、区域指定される自治体への各種の働きかけ、弾圧を懸念する市民からの相談、そして弾圧への対応など、必要な活動を行って行きます。そしてこれらの活動はもちろん、その他の「戦争する国づくり」阻止のための活動を行っていきます。
2022年12月23日
土地規制法対策沖縄弁護団
団長 加藤 裕