私たち日本ペンクラブは、言論・表現・出版の自由の擁護、文学の振興と文化の国際交流、世界平和への寄与を目的として活動しています。88年前の設立の動機は、戦争に対する危機感でした。戦争に至る社会と世界は、いつ、どこにおいても味方と敵を作りだし、生命と人権を軽んじ、言論・表現の自由を抑圧する――そのことを身に沁みて知った文学者たちが、国境と言語、民族と宗教の壁を越えて集まったのが、国際PENの始まりでもあります。だからこそ私たちは、文学と文化的表現に立脚しながら、あらゆる戦争に反対します。
いまの日本で進む状況は、こうした私たちの基本理念に真っ向から反するものです。「殴られる前に殴る」という敵基地攻撃能力は、最小限度の防衛ではなく、全面的な戦争の始まりを意味します。台湾有事等を想定した沖縄県などで進む軍事訓練や自衛隊基地の増強は、住民の命を蔑ろにした沖縄戦の歴史に目を瞑るものです。文化や教育のための予算を削って軍備を増強することで国が富むというのは、明治・昭和の富国強兵の時代そのものの、過去の発想です。
しかもこうした戦争への道を、きちんと国民に説明することなく、政府が勝手に決め、その記録も公表せず、国会での合意前に米国に約束するなど、民主主義の手続きにもとる状況が続いています。それは結果として私たちに、考え、議論するきっかけを与えないものであって、市民の知る権利や批判する自由を奪うものです。
戦争が身近だからこそ、いまの平和を大切にしたい。
私たちは改めて、日本をはじめ世界の皆さんに訴えます。目の前の差別や分断、そして貧困こそが闘うべき敵であって、隣国を疑い貶めることは、決して「核なき平和な世界」の実現にはつながらないと。
2023年5月2日
一般社団法人日本ペンクラブ
会長 桐野 夏生