2023年6月20日 12:00沖縄タイムス
「肌感覚では尖閣はエスカレートしていません」
2023年3月30日、自身の退任前の最後の定例会見で、集まった報道陣を前に、第11管区海上保安本部の一條正浩(いちじょうまさひろ)本部長(60)はこう発言した。
一條氏は2021年4月の着任から、ほぼ全ての定例会見で、開口一番「まずは尖閣の状況を説明します」と始め、「国際法違反で極めて深刻だと捉えている」と繰り返していた。「エスカレートしていない」発言は、これまでの発言からすると驚きだった。
ちょうどそのころ、政府は有事の際に海上保安庁を防衛相の統制下に置く「統制要領」の策定を進めていた。尖閣警備に関連し、海保予算の増額も決まる中、現場のトップが“水を差す”発言をしたのはなぜか。
退官して2カ月の一條氏に、この時の真意を聞いた。(聞き手=社会部・矢野悠希)
ー退任前の会見で在任中の尖閣情勢を問われ「肌感覚ではエスカレートしていない」と述べました。
「中国海警局の船の動きに特段の変化はありません。『領海侵入時間の過去最長を更新した』『接続水域内の確認日数が前年を超えた』とか、数字にスポットを当てて、大変だとあおるような論調が多いように見えました。われわれ現場の認識は違うよというのを伝えたかったです」
ー現場はどういった認識ですか。
「侵入時間が長いのは、中国からすれば日本漁船が長い時間領海内にいたからです。接続水域の確認日数も、海上模様、もっと言えば台風が来ているか来ていないかに左右されます。 (以下略)