原爆犠牲者慰霊平和祈念式典に当たり、長崎県民の皆様とともに、原爆犠牲者の御霊に謹んで哀悼の誠を捧げます。
77年前の今日、この上空で炸裂した一個の原子爆弾は、多くの尊い命を奪い、必死で生き延びた人々の心と体にも生涯癒えることのない深い傷跡と健康障害を残しました。
この苦難の中、長崎は人々の懸命な努力と思いによって、緑豊かな街に生まれ変わりました。そして、苦難を知るからこそ、強く平和を願う街となりました。
ロシアによるウクライナ侵攻により、核兵器使用への懸念が高まる中、今年6月には核兵器禁止条約の初めての締約国会議が開催され、また、今月1日にはNPT再検討会議が開会いたしました。
NPT再検討会議には、我が国の総理大臣として初めて岸田総理が参加され、私も現地にて「長崎を最後の被爆地に」との長崎県民の強い思いを発信してまいりました。
我が国は唯一の戦争被爆国として、世界に核廃絶を訴えるべき立場にあります。日本政府におかれては、立場の異なる国々の橋渡しとしての役割を果たすなど、これまで以上に核廃絶に向けた国際的議論を主導いただくことを強く願います。
また、核なき世界の実現には、核兵器は決して使用されてはならない関係国が互いに兵器であることをあらゆる国が共有し、対話と行動を重ねていく必要があります。各国の指導者におかれては、被爆地を訪れ、被爆者の声に耳を傾け、被爆の実相に直接触れていただくことを強く願います。
今年、長崎の平和運動を牽引してきた被爆者団体の一つが、高齢化などを理由に解散いたしました。被爆者の意思を引き継ぎ、被爆の実相を後世に伝える人材の育成に努めるとともに、平和学習機会の充実を図り、県民一体となって平和への思いを発信してまいります。
また、本年4月から、広島で黒い雨に遭った方に対する被爆者認定が進められています。しかし、長崎は対象外とされています。どうぞ、政府におかれてましては、長崎の被爆者体験者についても、救済の道を開いていただきますようお願いいたします。
8月9日は、長崎県民にとって永遠に忘れることのできない「祈りの日」であり、三たび核兵器による惨禍を起こさせない「誓いの日」であります。
ここに、原爆の犠牲となられた多くの御霊の安らかならんことをお祈りし、被爆者や被爆体験者のご健康を願い、核兵器のない世界の実現のため一層の努力を重ねることをお誓い申し上げ、慰霊のことばといたします。
令和4年8月9日
長崎県知事 大石 賢吾