■平和構想提言「戦争ではなく平和の準備を―”抑止力”で戦争は防げない―」の要旨
(1)いま何が起きているのか
安全保障関連3文書改定は、日本の安全保障政策を根本的に変更し、自ら戦争をする国家に変貌する。国民投票を通じて憲法を明文的に変えなければ許されないほどの重大な変更だ。憲法の実質が勝手に上書きされようとしている。
政府・与党は「抑止力を高める」とするが、実際には戦争のリスクを高める。北朝鮮の核ミサイル開発、中国の軍備増強や海洋進出は重大な問題だが、日本の対応策が軍備増強や攻撃態勢強化ばかりなら、平和的解決は遠のく一方だ。
今日の軍事的緊張がエスカレートすれば、戦争は現実となる。東アジアにおける戦争は世界の経済、食料、環境に壊滅的な影響をもたらす。軍事的な「勝利」の想定に意味はない。
米中対立の中で、「日米同盟強化」一辺倒の姿勢をとり、米国との軍事協力関係の強化に突き進んでいくことは極めて危険。その失敗は、世界大戦となるリスクと背中合わせだからだ。
(2)「国家安全保障戦略」改定のどこが問題なのか
敵基地攻撃能力の保有について、政府・与党は「専守防衛の考え方の下」で進めると強弁するが、専守防衛の肝は、隣国に届く武器を持たないことで他国への脅威とならないようにすること。この大原則が根本から覆されようとしている。相手国にミサイルを撃ち込めば、当然、日本は報復攻撃を受ける。その先はミサイルの撃ち合いの戦争だ。
首相は、防衛費を2027年度に国内総生産(GDP)の2%程度に増額するよう指示した。実現すれば、世界第3位の軍事費大国となる。増額論の前に、その透明性と説明責任の確立こそ急務だ。
防衛装備移転3原則の運用指針を改定し、殺傷能力のある大型武器の輸出も検討されている。日本製の武器によって他国の人々が殺傷されることが現実となる。紛争当事国に肩入れすることは、日本が紛争の予防や解決の仲介者となるための国際的信用を失わせる。
政府は米国による核の使用・威嚇政策を支える側に回っている。核兵器禁止条約にも背を向けたままだ。
(3)考え方をどう転換すべきなのか
軍事力中心主義や「抑止力」至上主義は、極めて短絡的で危険だ。抑止力は、武力による威嚇に限りなく近い概念。安保論議の中心に据えられている状況は憂慮すべきだ。持続可能な安保のため、抑止力の限界を認識し「抑止力神話」から脱却しなければならない。
民主主義や人権、法の支配といった基本的価値は妥協すべきではない。平和もまた基本的人権で、紛争を平和的に解決することは国際法の要請だ。民主主義のためだと称して、戦争の準備に突き進むべきではない。米国への過度な軍事的依存を正し、アジア外交と多国間主義を強化すべきだ。平和は一国で作れない。中国との緊張緩和と関係改善、朝鮮半島との関係の安定化は、日本の社会・経済をより豊かにする。
(4)平和のために何をすべきか―今後の課題
・朝鮮半島の平和と非核化に向けた外交交渉を再開させる
・元徴用工問題について、過去の被害を踏まえた解決策を探る
・中国への「敵視」政策を停止する
・日中の首脳レベル相互訪問の早期再開に合意する
・日中間の安全保障対話を進める
・「攻撃的兵器の不保持」の原則を明確化・厳格化する
・トマホークを含め「敵基地攻撃能力」を構成し得るあらゆる兵器の購入や開発を中止する
・辺野古新基地建設と南西諸島への自衛隊基地建設を中止する
・核兵器の先制不使用を米国をはじめ核保有国に働きかける
・核兵器禁止条約への署名、批准。まずは同条約締約国会議にオブザーバー参加する