「ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会」発起人新垣邦雄さんの寄稿です。5月10日、与那国町から3人の方々が防衛強化、ミサイル配備計画に対する県、県議会へ要請文、沖縄防衛局への質問状を出しました。軍事の島、そして「人が住めない島」に変貌させようとする国防政策の内容を糺し、強い抗議と反対の意思を示すためです。しかし、県も防衛局もその思いに真正面から向き合う姿勢は全く感じられませんでした。同行した新垣邦雄さんは本稿で、県、防衛局両者の姿勢を「足蹴にしたに等しい」と表現し、その姿勢を厳しく批判しています。要請した植埜さんは記者会見で「与那国島はみなさまの地域の少し先を行っている。(与那国島を)成功例にして、いろんな地域で起こってくるのではないか。住民の住んでいない島になっていいのか」とコメントしました。ぜひお読みください。*
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*「与那国住民が直訴 全島要塞化を危惧」*
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*防衛局は玄関、県は廊下で*
自衛隊ミサイルなど軍備強化が進む与那国町住民は5月10日、沖縄防衛局と玉城デニー知事に質問状、陳情書を出した。やむにやまれぬ思いで与那国島から飛行機に乗り防衛局、県に直訴したのである。山田和幸氏が防衛局の玄関で質問状を読み、名刺も渡さぬ局職員が黙って聞いた。山口京子さん、植埜貴子さんは県庁の基地対策課の廊下で陳情書を読んだ。言い知れぬ怒りを拭えない。防衛局の門前払いはいつものことながら許しがたい。それ以上に、県民の命を守る責務を負う沖縄県が、命の不安を抱いてはるばる与那国から出向いた町民をねぎらいもせず廊下対応で帰したことが許せない。足蹴にしたに等しい。
県は与那国全島避難の図上訓練を実施した。与那国町は島外への避難者を助成する基金条例、一日で全島民を避難させる計画を公表した。沖縄県が台湾有事に備える全島民避難を誘導し、防衛省は地対空ミサイル配備と並行して大規模なミサイル基地建設を計画し、町長は隣接する港湾の整備、与那国空港の滑走路延長を県に要請した。港湾、空港が軍事利用されるのは確実だ。防衛省の狙い通りに与那国島全体が軍事基地化されようとしている。町長が先導役となり、沖縄県もお先棒を担いでいる。そのようにしか見えない。
与那国島が「人の住まない島、住めない島になるのではないか」。切実な思いで直訴に及んだ住民に対し、沖縄県、防衛局の門前払い同様の対応はあまりに無慈悲、不誠実だ。
*地対艦ミサイルも配備か*
筆者(新垣)は山田氏に同行した。防衛省は15日に与那国島で住民説明会を予定する。その前に質問状を防衛局に届け文書による回答を求めた。地対空ミサイル配備の前に、PAC3ミサイルが配備された。「新たなミサイル基地に中長射程の敵基地攻撃可能な地対艦ミサイルが配備されるのではないか」。「ミサイル基地ができれば有事に攻撃される不安がある。超音速、多弾頭のミサイル攻撃に与那国島の安全は保障されるのか」。避難を要する有事下で「町民を守るために自衛隊は具体的にどうするのか」。「島から出られない(避難できない)方々を防衛省はどうするのか」。
自衛隊、米軍は台湾有事下で「台湾を守る」ための共同作戦を計画している。最前線の与那国島に応戦する中国のミサイルが雨あられと撃ち込まれることが予想される。「住民の安全は保障されるのか。避難できない住民をどうするのか」。町民が当然に抱く不安と疑問、質問に防衛省はていねいに説明する責任がある。
*戦場の日常化*
ミサイル戦争を危惧する大人たちだけではない。避難訓練で机の下に頭を抱えて隠れた小学生は、母親に「(与那国は)何か悪いことしたの」と話したという。訓練で戦車を持ち込み、PAC3ミサイル配備、道路を自衛隊車両が行き交い戦闘服の自衛隊員が闊歩する「戦場のような光景の日常化」が島民、子どもたちの心に影響を与えているという。質問状には「戦闘服着用を改善できないか」と記した。
玉城知事あて陳情書は町長が要請する港湾の軍事利用の懸念と、海浜だけでなく多様な生物が棲む湿原の自然破壊が指摘された。国内外で有数の優良な自然生態系の湿原が壊滅の危機に瀕する問題は、今後大きくクローズアップされそうだ。
防衛局や県の冷たい対応に比べ新聞、テレビ各社は熱心に取材した。県庁の記者会見は1時間を超した。最後に「県が全島避難計画、町も全島避難要領を出し、防衛省は大規模な基地建設を計画している。住民を追い出し全島要塞化する狙いではないか」と筆者の胸に募る疑念を聞いた。
*硫黄島と一緒*
山田氏は「(全島避難、全島要塞化)そこが焦点だと思う」と吐露した。「与那国島は硫黄島と一緒」。はるか遠い太平洋に浮かぶ硫黄島は与那国島と同じ北緯24度にあり、「住民の住む豊かな島」であったが、太平洋戦時下、米軍の戦火が迫ると「最初は自主的な避難だったが最後は強制的に、兵員となる100人を残して全住民を避難させた」。人の住む島だった硫黄島は「軍事要塞の島」となり米軍との激戦で日本軍は壊滅。戦後も島民の帰島は認められていないという。(海上自衛隊基地となり全島が基地。自衛隊員以外の立ち入りが禁じられている=ウィキペディア)
「昔と同じではないか。島民の命を守るためにと避難させ基地の島にしようというのではないか」。
「島の生活は大変で医療も厳しい。(避難基金)条例でお金が出ることになれば、今のうちに子どもを連れて出て行こうか、お前らまだいるのかという空気になるのでは。島にいたいけれども、やむなしということになりかねない」。
しかし「乗せられてはだめ。騙されてはいけない」と山田さんは語った。
15日の住民説明会に出席し、「文書回答」を要求した質問状に防衛省が誠実に回答するかを見定めることにしている。
*国防優先、聞かず、知らせず*
記者会見では「町長は町民を守ると言いながら国防を優先している」、独断で軍事利用を疑われる空港滑走路の延長、港湾整備を要請したことに「町民の意見を聞くことも知らせる必要もないという考え方だ」とする批判が上がった。
沖縄県は「国民保護図上訓練」で与那国、石垣、宮古の「全島避難」の計画を示し、それに基づき与那国町は「全島避難」要領を決めた。「国防」の名の下に政府防衛省が差配する島々のミサイル基地化と「全島要塞化」を与那国町長、沖縄県が担う構図になってはいまいか。
ノーモア沖縄戦の会は県への申し入れで、「先島が全島避難で、自衛隊だけでなく嘉手納、普天間の米軍の重要基地がある沖縄島(本島)を屋内避難とする理由は何か」と追及し、県側は「地元の意向を踏まえた」とあやふやな説明でかわした。自衛隊と米軍基地が集積する沖縄島が有事で攻撃目標の戦場とならない保証はない。沖縄島が「全島避難」でない理由は、単純に「130万人の避難は不可能」だからではないのか。そうであれば沖縄島の住民は島外避難の手立てもなくミサイル戦争下で沖縄戦以上の犠牲を免れない。
植埜貴子さんは「与那国島はみなさまの地域の少し先を行っている。(与那国島を)成功例にして、いろんな地域で起こってくるのではないか。住民の住んでいない島になっていいのか」と問いかけた。
与那国島の問題をどこか他所事のように見がちな沖縄島の我々への強い警鐘である。
新垣邦雄(ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会発起人)
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