*********
2022年 03月 31日
経済を軍事化し、企業秘密漏洩を厳罰化する経済安保推進法案を懸念する声明
3月31日午後、市民や自治体議員の有志でつくる「経済安保法案を懸念するキャンペーン」が、立憲民主党の法案に関係する議員に提出した声明です。ご一読のうえ、広めてください。
-------------------------------
経済を軍事化し、企業秘密漏洩を厳罰化する経済安保推進法案を懸念する声明
1 法案の内容
本年2月25日、経済安保法案が閣議決定され、国会に提案された。法案は、①特定重要物資の安定的な供給(サプライチェーン)の強化、②外部からの攻撃に備えた基幹インフラ役務の重要設備の導入・維持管理等の委託の事前審査、③先端的な特定重要技術の研究開発の官民協力、④原子力や高度な武器に関する技術の特許出願非公開の4本柱で構成される。
この法案は、国家安全保障を名目として、多くの事項を政省令などに委任しているため、規制内容そのものが明確でない。そのため、企業活動と学術研究の自由を制約し、市民監視の強化につながるものだ。
2 法案の問題点を先取りした大川原化工機事件
国家安全保障局(NSS)が、2020年4月に「経済班」を組織し、経済安保法案の危険性を先取りしたような刑事事件がすでに発生している。「大川原化工機」事件である。乾燥機の中国・韓国への輸出が生物兵器に転用可能な機器を不正に輸出したとして、同社社長ら3名が逮捕され、1年近くも勾留され、第1回公判前に検察官が起訴を取り消すという異例の事態となった。2022年3月号の『世界』に掲載された青木理氏の「町工場VS公安警察」には、警察の思惑によって、経済産業省も軍事転用可能とは考えていなかった技術が、公安警察の見込み捜査によって不正輸出にでっち上げられていった過程が克明にまとめられている。
3 企業活動が軍事に従属し、企業秘密が拡大し、秘密漏洩が厳罰化される
法案の問題点の第一は、経済安保法案によって企業活動が軍事に従属し、企業の活力をそぎ落としてしまう危険性があることである。経済安保法案は、「国家」(第1条等22ヶ所)を前面に押し立て、官民の関係を対等な関係から主従関係へ移行させるものであり、企業の活力をそぎ落とし、経済の発展そのものを大きく阻害する危険性がある。
第二の問題点は、企業秘密の範囲が不当に拡大されることである。前記の4本柱のうち、①、③及び④については、民間人に対しても、「事務に関して知り得た秘密を漏らし、又は盗用してはならない」として、罰則付きで守秘義務を課すものとなっている。
しかし、この「秘密」は、特定秘密保護法の「特定秘密」に限定されるものではなく、本来は経済活動の自由に属する「特定重要物資」、「特定重要技術」、「特許出願情報」を保有する者を対象として「事務に関して知り得た秘密」とだけ規定されるのみで、「秘密」の範囲が不当に拡大されるおそれがある。しかも、国会に設けられた情報監視審査会の監視対象にすらならず、秘密の範囲の拡大を防止する歯止めがない。
第三の問題点は、秘密漏洩・盗用に係る処罰条項によって、特定重要物資の安定的な供給の強化については、取扱業者に対して、生産、輸入、保管状況等について国が調査する権限を持つとされるため、企業活動に対する過度な介入・統制を招きかねない。既に大川原化工機事件で明らかになっているように、経済活動の自由(憲法22条1項)等が著しく制約されるおそれがある。
先端的な特定重要技術の研究開発の官民協力については、基本指針に基づき、「特定重要技術」の研究開発等に対し政府が支援を行い、官民パートナーシップと称する「協議会」によって、軍事技術につながる特定重要技術の研究開発を政府が一元的に管理・統制するシステムとなるおそれがあり、憲法9条に抵触し、科学技術研究の自由を侵害し、憲法23条にすら違反する可能性がある。
原子力や高度な武器に関する技術の特許出願非公開については、政令で定められる技術分野(核技術、先進武器技術等)に属する発明が記載されている特許出願について、出願公開等の手続を留保し、必要な情報保全措置を講じた技術や情報の流出を防止しようとするものであり、規制の対象は政令に白紙委任されている。広範な規制となるおそれがあり、研究者の学術研究の自由や特許権が侵害される可能性がある。
4 結論
我々は、国家安全保障を名目として「秘密」の範囲を無限定に広げる経済安保法案について、企業活動の自由、学術研究の自由等を侵害するおそれが強いことを強く懸念し、その慎重審議のうえ、抜本的に見直すよう求める。
2022年3月31日 経済安保法案を懸念するキャンペーン
<連絡先>
090-6185-4407(杉原)
03-3341-3133(東京共同法律事務所・海渡)