[社説]馬毛島基地計画 また無理押しするのか
(8月8日信濃毎日新聞)
防衛省が、鹿児島県西之表市の馬毛島(まげしま)で計画する自衛隊基地の配置案を公表した。
馬毛島は、米空母艦載機による陸上空母離着陸訓練(FCLP)の移転候補地となっている。実態は米軍用の施設だ。
地元の反対は根強い。政府は説明をなおざりにしたまま、頭越しに計画を押し進めている。
FCLPは、地上の滑走路を甲板に見立てて離着陸を繰り返す訓練で、現在は太平洋の硫黄島で実施している。神奈川県の厚木基地から山口県の岩国基地への艦載機移駐に伴い、政府は馬毛島に恒久施設を造る検討に入った。
種子島の西12キロにある広さ8平方キロの小島で、地上げによって1980年代に無人と化した。石油備蓄基地、使用済み核燃料の中間貯蔵施設、米軍普天間飛行場の移転先の候補にも挙がるなど、国策に翻弄(ほんろう)されてきた。
固有種マゲシカをはじめ、多くの希少動植物が生息する。反対する周辺の住民は騒音や事故、環境破壊による観光への影響を懸念する。半面、国からの交付金に加え150〜200人の自衛隊員が駐在する経済効果を期待し、賛同する人たちもいる。
西之表市が「FCLP以外の馬毛島の利活用を探る」との慎重姿勢を崩さない中、安倍晋三政権は昨年11月、島の大部分を所有する東京の開発会社と買収合意した。島内での違法な開発、森林伐採が指摘されている業者だ。
買収額は160億円で、不動産鑑定評価額の45億円との差は大きい。河野太郎防衛相は積算の根拠を明らかにしていない。
地元の理解と協力が重要―と言っていながら、今年の防衛白書から「地元に説明する」との文言を削っている。強引な進め方の背景に、トランプ米政権からの強い移転要請があったとされる。
施設では自衛隊機の訓練も行うという。いったん恒久施設となれば、中国の海洋進出をにらむ米軍と自衛隊が用途をどう広げていくか、知れたものではない。
政府はまず、地元での説明会を重ね、住民と誠実に向き合うことから仕切り直すべきだ。
沖縄での辺野古基地建設、秋田と山口での地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の配備構想と撤回、敵基地攻撃能力の保有検討…。安倍政権には説明責任を果たし、地方自治を尊重する意識があまりに希薄だ。
時の政権の一存で安全保障政策を自ままにできると考えるなら、思い上がりも甚だしい。