◎馬毛島の施設整備に「同意できない」と表明した種子島・西之表市の八坂市長の所見です。*************************
馬毛島問題への所見
2020年 10 月7日西之表市長八板俊輔
<はじめに>
馬毛島に米軍の空母艦載機離着陸訓練(FCLP)施設を造る計画は、種子島の未来にわたる問題であり、地元の住民、自治体だけでなく、周辺自治体、県民、国民にも大きな影響を及ぼします。安全保障の課題であるとともに、日本の独立の在り方も問われる重大事です。このため、住民が判断できる材料、正確な情報をそろえる狙いから、私は地元首長として、国との対話を重ねてきました。そして、この 1 年、国の動きが大きく進み、今夏、初めて防衛省が施設案を示しました。馬毛島の地元・西之表市で、市民の生命財産と暮らしを守り、安心安全な町づくりを託された市長の責任において、以下、私の考えを述べます。
1)防衛省の施設整備案
・防衛省が8月7日に示した自衛隊馬毛島基地(仮称)の施設整備案は、島の全体図に2本の滑走路や、大まかな施設エリアの配置イメージを示しています。
・「米軍の使用が前提」の訓練施設で、自衛隊が管理し、共同使用します。
・「陸海空自衛隊の訓練」を行い得る施設として、12 種類の訓練を例示しています。また、「整備補給等後方支援」の活動を行い得る施設です。ただ、いずれも可能性はあるが、確定していないといいます。
・施設の必要性について、日本をとりまく安全保障環境の観点から、中国、北朝鮮、ロシアの情勢を説明しています。
・本市が利活用を考えている小中学校跡、自然、生活関連跡などに関する記載は皆無であり、地元の歴史・文化に配慮する視点はうかがえません。
・総じて、不明な点が数多くあり、質問書を防衛大臣に送りました。
2)地元の期待と不安
・この問題について、基地建設に賛成する人、反対する人、さまざまな意見が寄せられています。どちらも、本市の現状や将来を憂い、よりよい解決をめざす気持ちが根底にあります。・賛成する市民は、基地設置に伴う経済効果に期待しています。基地本体はじめ関連施設建設の公共工事のほか、災害活動、隊員の住民としての居住による人口増加を見込みます。国が説明する防衛、安全保障に寄与するとの観点からは、国に協力することへの満足感も生まれます。・反対する市民は、自然環境への悪影響、騒音などの基地被害、漁業、観光など産業への影響を心配します。特に周辺海域は、ナガラメ(トコブシ)、キビナゴ、ミズイカなどの豊富な漁場です。漁師たちは、水揚げ減の厳しい環境下で守っている漁業への多大な打撃を懸念します。・ふり返れば、馬毛島には、ピーク時の 1959(昭和 34)年には 113 世帯、 528 人の住民がいました。石油備蓄基地計画のなか 1980(昭和 55)年 4 月に無人島となります。95(平成7)年頃、日本版スペースシャトルの着陸場の話がうかび、民間事業者が大部分の土地を買いました。途中、使用済み核燃料の保管場所の話もあり、住民は大反対しました。
・ 2007(平成 19)年に米軍空母艦載機離着陸訓練(FCLP)の移転候補地として初めて新聞報道がなされました。この後、種子島・屋久島の首長と議長とで協議会をつくり、国や県に反対の要請を続けました。
・当時、国は、馬毛島への移転の話は一切ないと答えていましたが、2011 (平成 23)年6月、日本とアメリカの安全保障協議委員会、いわゆる2プラス2において、「馬毛島は米軍空母艦載機陸上離着陸訓練の恒久的な施設として使用することになる。その候補地である」と、約束として公表されました。突然、地元を無視してなされたのです。・同年7月に副大臣が市役所を訪れ、「これまで日本全国 300 カ所以上探しても見つからない米軍の空母艦載機の訓練施設を、馬毛島に造りたい」とのことでした。普段は自衛隊の基地として使い、交付金も払うと。未来永劫、米軍が使う訓練施設を、日本国中探して受け入れ先が見つからない施設を馬毛島に造りたい、日本だけでなくアメリカでも住民が嫌がる施設を造りたいと言ってきたのです。
3) 防衛大臣の回答
・防衛大臣に8月末に出した質問への答えが 9 月末に届きました。
・日本の領土内に新たに土地を取得して、外国軍(米軍)に施設・区域を提供する例は、沖縄の復帰後、馬毛島が初めてとなります。
・回答によると、国内で米軍施設を新設した例は、既存の施設内か、隣接地に用地を求める形でした。しかし、今回の馬毛島のように、既存施設とは関連のない、まっさらの土地は初めてです。米軍は希望すれば、国内のどこでも施設(領土)の提供を受ける最初の事例となります。国は、自衛隊施設と説明していますが、米軍訓練のための施設なのです。
・米軍、自衛隊の補給、集積地として馬毛島が重要な施設となれば、軍事上の標的となり、地域住民の安全が脅かされることになります。
・航空機騒音や漁業への影響を国は「最小限にとどめる」といいますが、言いかえれば影響は避けられないのです。訓練自体も、種子島に拡大する可能性があります。・回答には、環境アセスメントをしないと明らかにできないとして、不明な事が数多く残されています。例えば、基地設置に伴う騒音などの影響が不明だとして、交付金の額は明らかにされません。・基地経済に期待する視点から回答をみると、影響が計れないという理由で各種交付金の額はわかりません。交付金は騒音など顕著な基地被害を積み重ねないと算定されません。被害と引き替えに、はじめて手にすることができるのです。隊員が住む経済効果をいうものの、家族帯同の割合などは限定的です。メリットとデメリットのジレンマがあります。
・防衛省が地元に求める「御理解御協力」は、基地被害を甘んじて受ける覚悟を迫っているようにみえます。
・一方、はっきりしたこともあります。森林などの自然、豊かな漁場の大部分がさらに失われます。シンボルの岳之腰(標高 71 ㍍)は撤去され、何千年も維持されてきた自然景観が、人為的に変えられます。
・環境アセスメントを終えるまでに、着工への準備が進められ、地元の意向がどの時点で反映されるのか不透明です。
・既に今でも、国有地を理由に立ち入りが制限され、自然や遺跡など西之表市の市史編さんに関する調査すら、半年も止められています。・歴史をさかのぼれば、種子島はかつて「多禰国(たねこく)」と呼ばれ、一つの「クニ」でした。広田遺跡と馬毛島の椎ノ木遺跡で発見された人骨には、古墳時代以前の地域の歴史が秘められているのです。本市は、市史編さんのための調査の早期実施へ、引き続き協力を求めています。
4) 心配されること
・最も大きな問題は、米軍の訓練や基地に対して、日本は制限がかけられないことです。一度、基地を容認すると米軍は自由に行動でき、国内法で歯止めがかけられない状態が、沖縄をはじめ日本各地で起きています。
・これは、「日米地位協定」という、終戦後に交わされたアメリカとの約束事が、占領時代の米軍の特権を温存したまま残されているからです。・例えば、米軍機の飛行ルートを決め、絶対に騒音の影響が出ないように約束したとします。しかし、風向きが変わったとか、緊急時とか言って、約束を守らなくても、日本政府はやめさせる権限のない実態があります。
・嘉手納(沖縄)や厚木(神奈川)で基地周辺住民が騒音訴訟をおこし、「違法」判断が出ても、軍用機の飛行差し止めは認められず、住民の望むような改善は、実施されないのが今の日本の実態です。
・種子島空港にも故障や給油のため米軍機が「緊急着陸」します。日本中の空港や港を自由に使えるのも日米地位協定が根拠になっています。
・施設整備案で「陸海空自衛隊の訓練」に例示された訓練は、ステルス戦闘機F35B や輸送機オスプレイなど米軍と共通機種の航空機なども対象とされ、将来は米軍、自衛隊双方の訓練が集中する可能性があり、騒音、環境汚染などの各種基地被害の拡大が懸念されます。
5) 未来への責任
・国が防衛や安全保障の問題に取り組んでいるのと同様、本市も人口減少、雇用問題など喫緊の課題を抱えています。
・国も地方自治体も国民の幸福を求めています。自治体は住民に密接な地方自治、政府は広範な国政をそれぞれ役割分担しています。上下関係ではなく対等な、補い合う関係です。
・種子島は、昔から移住者を受け入れ、その活躍で成り立ってきました。豊かな自然環境は農作に適し、海の幸に恵まれています。農林水産業を軸に、商工業、観光などを絡めた産業振興で自立する道があります。
・馬毛島は西之表、種子島、屋久島、さらに周辺地域と一体となって歴史と文化をつむいできました。近年の造成工事が止まって9年。植生が戻り、沿岸の魚介類の密度が高まっているという漁業者の声も聞かれます。
・基地経済に頼った地域の発展は、基地機能の強化の度合いに比例し、同時に、他の資源利用を妨げることから、一度踏み入れば引き返せなくなる恐れがあります。
・私は、今回の訓練施設の設置によって失うものの方が大きいと考えます。
・先人の知恵を歴史に学び、祖先から受け継ぐ故郷を次代にしっかり伝えなければなりません。静かで豊かな環境を守り、地域本来の力を信じて進む道が、常に私たちの目の前に開かれています。
・基地経済に依存しない町づくりを推進することにこそ、持続可能な社会への希望があります。将来にわたって島の子どもたちが安心して生活できる島を築くことが、今を生きる者の責任であると、私は考えます。
・地元首長として、国の施設案への疑問点をあげ、回答を得た現段階でも、なお不明点は払拭されていません。情報が不十分なまま、国は市民に直接、説明の場をつくろうとしており、事を急いで焦っているように見えます。理解不十分のまま、なし崩し的に進められる懸念が残ります。
・かかる状況から、国の計画に、地元首長として「同意できない」との判断に至っています。
・私は、この考えを、国に伝えようと思います。
以上