2021/6/12 6:00西日本新聞
米軍機訓練の移転先とするため政府が大半を取得した鹿児島県西之表市・馬毛島の買収額約160億円は、地権者が独自に島内に滑走路などを造成した費用を「整地料」として上乗せし、算出されていたことが分かった。政府と地権者の双方の交渉関係者が、西日本新聞の取材に証言した。買収交渉が難航する中、米側から早期の訓練移転を要求され、当時の官房長官だった菅義偉首相が決断したという。 (湯之前八州)
馬毛島の買収額は最終的に、政府が適正とした評価額の3倍を超えたが、その積算根拠の一端が明らかになるのは初めて。馬毛島の大半の地権者である東京の開発会社は訓練誘致を目指し、滑走路などを造成したが、国の公害等調整委員会は2016年、この造成について森林法違反が推認されると指摘していた。違法の疑いのある造成費用分まで買収額に含める形で、政府予算を支出することの是非が問われそうだ。
11年6月、政府は馬毛島での訓練を検討することで米国と合意し、開発会社と交渉を開始。適正な評価額を約45億円とする政府に対し、同社は約400億円を主張して平行線をたどった。政府側は菅氏が司令塔となり、19年1月に買収額約160億円でまとまった。
官邸の交渉関係者は取材に対し、その経過を「政府の評価額に『整地料』を上乗せした」「日米同盟を維持する観点から、是が非でも買収する必要があり、菅氏が決断した」と答えた。当時、米トランプ政権が早期決着を繰り返し促してきており、開発会社の造成に森林法違反の疑いがあることは「議論にならなかった」としている。整地料の具体的な金額は明らかにしなかった。
開発会社側の交渉関係者も取材に応じ、「『整地料』名目で増額したとの説明を、官邸の担当者から聞いた」と振り返った。同社は造成費用を盛り込み、評価額を計数百億円とする独自の不動産鑑定結果を政府に提示しており、「この評価額が根拠になったとの(政府側の)説明だった」という。
買収交渉はその後、いったん白紙となったが、19年11月に約160億円で再合意。政府は、国会審議が必要ない財政法の「流用」規定を適用し、米軍普天間飛行場(沖縄県)の辺野古移設に関する予算の不要分などから充当した。約160億円の積算根拠を、政府は「利害関係者の調整があり、現時点で明らかにできない。適切な段階で説明したい」として公表していない。防衛省によると、公表時期は未定。