■「馬毛島連絡会再結成2周年記念講演会」報告
馬毛島への米軍施設に反対する市民・団体連絡会は11月30日で再結成2周年を迎えました。これを記念して、昨日12月11日、愛媛大学法文学部人文社会学科准教授の朝井志步先生をお迎えして記念講演会を開きました。多くの会員と支援者、さらにズームでの参加や取材もあり、大きく成功させることができました。
講演では、まずは馬毛島で実際の米軍FCLP(空母艦載機陸上離着陸訓練)が行われた場合に予想される騒音と、それによる人体への被害についての話でした。旅客機と戦闘機の違い、昼間と夜間の違い、米軍機の飛行ルートを日本側が何ら規制するルールが無いことをわかりやすく話してくれました。5月の防衛省による2回にわたる馬毛島でのデモ飛行は、戦闘機の機種が違いタッチアンドゴーも無く、「騒音はたいしたことは無いよ」ということを言いたかっただけだろうとのことでした。
もうひとつは、米軍岩国基地がある山口県岩国市での米軍再編交付金と自治体への国の介入についての話でした。札束で顔をひっぱたく、という言葉がぴったりであると思いました。
講演のあと、ズームでの参加者から「岩国のことを参考にして、私たちは何をすべきか」という質問がありました。これに答えて「自治体の正式な意向は、首長と議会の態度である。ここで明確な反対の立場をとり続けることが大事だ。」とのことでした。
講演のあとの懇親会にも多くの会員が参加しました。また明日からも、米軍FCLP移転阻止に向けて頑張ることを確認し合いました。にぎやかな2周年記念集会でした。
朝井先生の講演原稿を添付しました。ごらんください。また、講演の録画をDVDに編集中です。ご希望のところには提供しますので、連絡会までメールください。アドレスは
mageshimarenrakukai@mageshimabeigunshisetsuhantai.com
です。
■「馬毛島への米軍施設に反対する市民・団体連絡会」結成2周年記念集会
2021年12月11日
愛媛大学法文学部 准教授 朝井志歩
「米軍基地周辺での騒音の実態と地域振興策」
◆講演のテーマ
①騒音問題
・米軍基地周辺での騒音の実態とはどのようなものか。
・米軍機の騒音によってどのような被害が生じているのか。
・馬毛島での基地建設によって、どのような被害が予想されるか。
②地域振興策の検証
・これまでのFCLP施設移設計画で、どのような地域振興策が地元に提示されてきたのか。
・米軍再編交付金とは何か。
・米軍基地が地域経済に与える影響にはどのようなものがあるか。
1. 1. 騒音問題
1-1. 米軍基地周辺での騒音の実態
・100~120dB(デシベル)の騒音が日常的に発生している。
・ビルの工事現場やガード下と同じくらいの値。
・低空飛行をすることで、騒音は広範囲に及ぶ。
*特に、空母艦載機による特別訓練であるFCLP(Field Carrier Landing Practice:離発着訓練)の騒音被害は甚大。
1-2. 騒音の影響� ①日常生活妨害、情緒妨害
・会話の中断
・テレビ・電話の視聴困難
・睡眠妨害
・作業・学習妨害に代表される日常生活妨害
・不快感やイライラ等の情緒妨害、精神的ストレス
②身体的被害
・難聴や耳鳴りなどの聴覚障害
・循環器系や内分泌系における生理的機能の変化
・低出生体重児(2500g未満)と早産児の増加 ※
※1995年に沖縄県が嘉手納基地周辺で実施した調査では、騒音曝露量との間に有意な差が認められた。「航空機騒音による健康への影響に関する調査報告書」(沖縄県,1999年)より。
③子どもへの影響�<身体的影響>
・風邪をひきやすくなる。
・頭痛や腹痛をよく訴える。
・食欲がない。
<情緒への影響>
・落ち着きがない。
・気が散りやすい。
・行動面ではぐずくずしがち。
・友達づくりに手間取る傾向がある。
*以上、「航空機騒音による健康への影響に関する調査報告書」(沖縄県,1999年)より。
・なお、畜産への影響を調べたものの、米軍基地を抱える自治体による調査は住民への影響を調べており、家畜への影響は調査されていなかった。そのため、畜産への影響は不明。
1-3. 馬毛島での基地建設による被害予想
・2020年8月7日に防衛省は西之表市に説明資料「馬毛島における施設整備」を提示。
・馬毛島周辺の地図に岩国基地と厚木基地での75WECPNL等値線図を当てはめた騒音予想図が示された。
・種子島は75WECPNL以上の騒音区域には入らないことを図示している。
*「馬毛島における施設整備」、令和2年8月7日、防衛省・自衛隊、
・WECPNL(Weighted Equivalent Continuous Perceived Noise Level)とは、「加重等価継続感覚騒音基準」と訳され、ICAO(国際民間航空機構)で提案された航空機騒音を総合的に評価する国際的な単位。
・音の強さ、成分、頻度、発生時間帯、継続時間などの諸要素を加味し、夜間の騒音を日中の10倍に加算するなど、人の生活に与える影響を評価する騒音基準。
・「W値」や「うるささ指数」ともいわれている。
1-5. WECPNL75とは何を意味するのか
・公害対策基本法第9条に基づき、1973年12月に環境庁は「航空機騒音に係る環境基準」を設定し、全国の公共飛行場に対して定められている期間内に速やかに環境基準を達成するように指針を示した。
・航空機騒音の基準を、住宅専用地域ではWECPNL70以下、それ以外の地域ではWECPNL75以下とすることが定められた。
・この環境基準は米軍飛行場周辺地域においても同様に適用されることが、政府の見解として言明されている。
・1974年に「防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律(生活環境整備法)」が施行。
米軍基地や自衛隊基地に対する施策はこの法律に基づいて行なわれ、飛行場等の周辺の生活環境の整備のために飛行場周辺において区域類型指定がなされた。
・WECPNL75以上の第1種区域に所在する住宅に対して、防音工事の助成が行われる。
・WECPNL75以上の区域が騒音被害地域となる。
・WECPNL75以上の地域に居住する住民は「騒音被害者」として認識されており、基地騒音訴訟の原告適格を持つ。
・WECPNL75以上の区域が騒音被害地域とされているが、 その区域の外にも騒音の被害は生じているといわれている。
・米軍機の実際の飛行ルートは広範囲であり、騒音の被害はもっと広範囲に及ぶため。
・厚木基地の騒音訴訟では、 WECPNL75以上の区域に含まれない地域の住民が原告に加わったものの、これらの原告には損害賠償は認められていない。
1-6. デモ飛行の結果
・防衛省は2021年5月16日と5月25日に、自衛隊の戦闘機を使い、馬毛島での訓練に伴う騒音を計測するデモ飛行を実施。
・70dB以上を記録したのは2地点で、測定結果の最大値は中種子町での77dB。
・米軍の戦闘機によるデモ飛行ではない点や、滑走路を使ったタッチ・アンド・ゴーは実施していない点から、実際のFCLPでの騒音の数値が示されたとはいえない。
・防衛省や自衛隊には、米軍機の運用に対する管理権はないため、米軍機がどこを飛行するのかについて、日本側は確約できない。
・「それほど音は大きくない」との認識を広めるために実施したのではないか。
1-7. 馬毛島での基地建設による被害予想についてのまとめ
・防衛省が提示した馬毛島周辺に岩国基地と厚木基地での75WECPNL等値線図を当てはめた騒音予想図よりも広範囲に、騒音の被害が及ぶ可能性はある。
1. 2. 地域振興策の検証
・これまでのFCLP施設移設計画で、どのような地域振興策が地元に提示されてきたのか。
2-1. 三宅島
・1980年代に三宅島がFCLP施設の候補地となったが、住民も議会も反対を表明。
・防衛施設庁の局長など国の関係機関や自民党議員が三宅島へ赴き、住民の説得に乗り出した。
・開発計画による土地の高額買い取りや雇用の創出などを提示。
・自民党の政調会長ら9人の国会議員は、総経費700億円余りの三宅島振興計画を持って島を訪れた。
・民間ジェット機の往来も兼ねた官民共用空港の建設、ヨットハーバーやゴルフ場の建設などを含んだ大規模な観光開発が盛り込まれる。
・自民党は「三宅島振興対策特別措置法」という特別法の制定を検討していた。
・しかし、予算や計画案に関して関係省庁の同意という具体的な裏付けもないまま自民党の国会議員が提示したのが、「三宅島振興計画」の実態だった。
2-2. 岩国基地
・2005年、日米両政府による米軍再編計画で、厚木基地に駐留する空母艦載機部隊59機を岩国基地に移駐させることが示された。
・岩国市では当初、空母艦載機部隊の移駐計画に市長も議会も市民も反対していた。
・2006年1月になると、岩国基地への艦載機移駐問題に対して、岩国市議会の議員の間では、「国から振興策をもらった方が現実的ではないか」という意見が出るようになる。
「来るものは来るんだから、反対してても来てしまったら何も取れないじゃないか。負担だけが来て、何も取れなくなる。だから、もうそろそろ、地域振興策を獲得した方がいいんだ」(前岩国市長井原勝介氏への聞き取りより。2007年2月13日)
・2008年2月の岩国市長選挙によって市長が交代。
・選挙戦では艦載機移駐を容認すると明言せず、艦載機移駐問題を選挙の争点から遠ざける「争点外し」をして新顔市長が当選。
・その後、三選を果たした岩国市長は、2017年6月23日に市議会で厚木基地からの岩国基地への空母艦載機部隊移転を受け入れると正式に表明。
・2017年8月から岩国基地への空母艦載機の移駐が開始し、2018年3月末までに約60機の移駐が完了。
・この移駐によって、岩国基地に駐留する米軍機の数はこれまでの2倍の約130機となり、約110機が駐留する沖縄の嘉手納基地を抜いて、岩国基地は極東最大の米軍基地となった。
・この空母艦載機部隊が、馬毛島でのFCLP施設で訓練を実施する計画が現在進行中。
2-3. 岩国市に示された地域振興策� 2-3-1. 米軍再編交付金とは何か
・2007年5月23日に成立した米軍再編特別措置法に盛り込まれた交付金制度。
・「政府案の受け入れ」「施設整備の環境影響評価の着手」「着工」「再編の実施」といった再編計画の進み具合に応じて、段階的に「再編交付金」が支払われる制度。
・米軍の施設や部隊を受け入れる全国の都道府県や市町村が対象となり、基地の負担増となる度合いを勘案して金額が決められる。
2-3-2. 米軍再編交付金や基地関連の補助金
・岩国市への米軍再編交付金は、岩国市の試算によると2008年度から2021年度で総額約201億5千万円となる。
・特に、空母艦載機部隊移転を受け入れると市長が正式に表明した2017年度には、当初予算案の総額約739億5千万円に対して、米軍再編交付金や基地関連の防衛省からの補助金は約114億円に上り、岩国市の一般会計予算に占める割合は15.4%となった。
・米軍再編交付金は時限的なもの。
・米軍基地の補助金や交付金に依存した財政のあり方に対して、危惧されている。
*原発などの原子力関連の交付金が時限的であるために次々と新たな施設を欲しがる「禁断症状」を示すことを、高木仁三郎は「麻薬効果」と呼ぶ。(高木仁三郎,2011,『原子力神話からの解放』講談社 p.192-198)
2-3-2. 岩国市で米軍再編交付金や基地関連の補助金を活用した事業
・こども医療費助成、妊婦乳児健康診査、こどもを守る予防接種(計約17億8千万円)
・中学校給食センター(約15億6千万円)
・市道改良舗装(約10億2千万円)
・学校施設等の耐震化(約4億9千万円)
・2018年4月からは小・中学校の給食費の無償化も実施。
2-3-4. スポーツ施設
・元々は住宅地の造成が進められていた愛宕山開発事業跡地に米軍住宅が建設されることになり、愛宕山開発事業跡地の東側16ヘクタールは「運動施設エリア」としてスポーツ施設が整備された。
・野球場「絆スタジアム」、陸上競技場、ロータス(蓮)カルチャーセンターが造られた。
・米軍基地内であるにも関わらず、市民が自由に入ることができ、「日米共同使用」であることがアピールされている。
・「絆スタジアム」の正面入口に掲げられた日米両国の国旗に象徴されているように、愛宕山のスポーツ施設の造成は「日米友好のシンボル」として、岩国市長によって盛んにアピールされている
・愛宕山の米軍住宅化に対する岩国市民の反発を緩和することを目的とした「宣撫工作」であると指摘されている。
2-3-5. 基地工事バブル
・1996年から着工された沖合移設事業で1.4倍に拡大した岩国基地の敷地では、施設移転工事が進められ、毎年1千億円の思いやり予算が投入され、基地工事バブルが出現した。
・全国からゼネコンが集中して工事ラッシュが続いた。
・地元の建設業者は、大手ゼネコンの孫請け、ひ孫請けの仕事が入ったといわれている。
2-3-6. 商業施設や飲食業
・厚木基地からの空母艦載機部隊の移駐に伴う米軍の兵士やその家族3800人の人口増によって、岩国市では商業施設や飲食業など、米軍関係者を相手にした業界が好況となることが期待された。
「容認する人たちとか、あるいは商工会、経済界は歓迎する声があるんですよね。これを機に飲食店なんかはセンターみたいなものを作ってウェルカムみたいな。それを機に発展を願う声も」(「住民投票の成果を活かす岩国市民の会」の方への聞き取り。2018年3月15日)
2-4. 岩国市へのアメとムチ
2-4-1. 新市庁舎建設補助金の凍結
・補助金や交付金は「アメ」としてのみ機能するわけではない。
・岩国市では2006年3月に厚木基地からの艦載機部隊の移駐の賛否を問う住民投票を実施。反対票は4万3433票で、投票総数4万9682票の87.42%を占め、全投票資格者の51.3%。
・岩国市の世論が艦載機移駐に反対の意思表示をする中で、国は公共事業の実施や補助金の支給が困難になる状況を作り出し、岩国市に対して圧力をかけた。
・2007年度中に完成予定であった新市庁舎建設のための補助金49億円のうち、最終年度の2007年度分の35億円が凍結された。*
*1996年のSACO合意での、普天間基地所属の大型ヘリコプター12機の岩国基地への受け入れの見返りとして交付が決定した補助金。
2-4-2. 補助金凍結による市長への批判
・市議会内の艦載機移駐容認派は、補助金凍結という事態を招いたのは市長の責任だと主張。
・2007年3月に岩国市議会は、艦載機移転容認を市長に迫る「在日米軍再編に係る決議」を採択し、国が提示する地域振興策を受け入れる意向を示す。
・市長が提案した新市庁舎建設の35億円分を合併特例債で置き換える一般会計補正予算案を、市議会は4度も否決し、市議会と市長の対立が深まる。
・予算案を通すことと引き替えに市長は辞職願を提出し、2008年2月の出直し市長選挙で市長が交代し、艦載機移駐容認派の新市長が誕生。
2-5. 地域住民の意識の変化
・岩国市は現在、「基地と共存する街づくり」を進める宣言をしており、市政として「基地との共存」を明確に打ち出している。
・基地関連の補助金を活用した諸政策は、特に子育て世代が恩恵を受けられるものが多く、若い世代が市民運動に無関心で、反対する声がまったく起きていないといわれている。
・米軍基地関連財源による地域振興策は、市長の実績として強調され、市政への評価につながるため、米軍の艦載機移駐容認派は選挙戦を有利に進めることができる。
2-5-1. 諦めの広がり
・岩国市民の間に諦めが広がったといわれている。
・「来るものは来る」という艦載機移駐容認派が言った通りに岩国市の現実が作られていくことで、それでも反対の声を上げ続けることが困難になっていった。
・賛成とか反対とかではなく、「言ってもどうにもならん、言っても仕方がない」とか、「どうせ反対しても来るんでしょ」という意見の蔓延。
・艦載機移駐を積極的に容認したというよりも、むしろ既成事実が作られていく中で移駐反対と言っても無駄だと感じ、声を上げなくなったというのが、岩国市民に起きた事態といえる。
2-6. まとめ:地域振興策の検証
・基地関連の補助金や交付金に依存した様々な地域振興策は、地域社会の世論を誘導し、変容させる。
・補助金や交付金への依存は、基地負担の受け入れを拒否した場合に、交付予定だった補助金が凍結されるという事態を内包しており、自治体行政の自律性を揺るがす。→国にNoと言えなくなる。
・自治体の財政依存といった問題や、地域経済の活性化につながるか否かという問題のみならず、地域住民の意識の変化をもたらす。
・既成事実化による「諦め」の広がりは、地方自治や民主主義を損なうといえる。