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鹿児島県熊毛地域の危機
西之表市在住の沖縄大学研究員牧洋一郎氏が昨日発表した論文です。
論文中引用されている、和田英夫博士(明治大学名誉教授、故人)の「国破れて山河無し、いや国が勝ちても山河無し」という言葉が現代の戦争を表しています。
■鹿児島県熊毛地域(種子島及び屋久島)の危機
現在、琉球弧(九州の南から台湾へ弧状に連なる島列、南西諸島)の島々では中国の脅威を念頭に、軍事基地の強化・要塞化が進行しており、殊に熊毛地域の住民らは不安と期待の中で騒然とした情況にある。そして、種子島の属島・馬毛島にての自衛隊基地及び米軍FCLP基地問題について、自衛隊と米軍の一体化すなわち集団的自衛権(自国に対する武力攻撃がなくても、同盟国が戦火に巻き込まれたときに、是非を問わず助けに入る権利)の行使が取りざたされる中、基地建設反対派の住民らは騒音被害を伴う等の理由で反対し、他方、基地建設賛成派の住民らは地域経済の浮揚等に繋がると期待し賛成している。
それから、奄美大島や徳之島などでは、自衛隊と米軍が最大規模の実践訓練を行って、日米の軍事的な一体化を強く印象付けている。つまり、現実問題として、琉球弧の島々では日米共同訓練が行われ、米国主導のグローバリズムに南西諸島は翻弄されているのである。しかし、主権国家日本にとって、自衛隊は米軍の二軍であってはならないのである。対米従属による現代科学の総力戦(戦争)が、この世の地獄をつくることに繋がる可能性は大なのである。
私が基地建設賛成派(改憲派)の主張に同意できない根拠として、彼らの見解には、平和的視点が欠落している点である。そして、中尾英俊博士が指摘する通り、改憲派の「自分が戦地に行かず、他人(若者・自衛隊員)に行け」とは卑怯な態度といえる。戦闘となった場合、自衛隊員らの生命の損耗が大きいのである。同博士の「憲法第九条を本当に実効あらしめるには、世界に第九条の意義を認めさせ、世界の各国に軍備禁止の規定をおいてもらうのである。つまり日本が憲法を改正するのでなく、世界に憲法の改正を呼びかけるのである。反核の問題以上に困難とは思うが、平和を願うならばその努力はすべきであろう」という主張に共感を覚えるものである。
我々は、わが国憲法と日米安保条約・日米地位協定、在日米軍、自衛隊、アメリカの世界戦略の関係を注視する必要がある。また、東アジアにおいて日米中台間に如何なる経済的利害が横たわっているかを追求すべきである。その利害に起因する紛争・戦争が生じた場合、熊毛地域はその最前線に立たされるといっても過言ではあるまい。
和田英夫博士の「国破れて山河無し、いや国が勝ちても山河無し」という指摘が現代戦争の宿命なのである。この必然を、我々は肝に銘ずべきである。結論として、権利のために闘争し、住民らは平和的視点を持つことが必要であるが、まず何よりも戦争を阻止することによって、この世の地獄をつくらないことである(反戦平和の貫徹)。
沖縄では基地依存による収入よりも、観光産業による収入が上回るという成果を上げていることに注目すべきであろう。八木沢二郎氏は沖縄について、「かつて基地(米軍)に依存していた経済からサービス(返還基地の商業施設など)、観光等への転換が進み、基地なしでやっていける状況…」と報告している。この社会的・経済的変化は、沖縄の住民が闘いの連続から生み出したものである。また一方で、来間泰男教授は軍用地料帰属につき、「勤労に基づかない棚ボタのカネが、そこらにばら撒かれることを異常と感じていない。これを健全な社会といえるだろうか。しかもこのカネは、ひたすら軍事基地を維持したいという『積極的な意思』を日々育てているのである。」と沖縄の実態を憂えているが、種子島において基地賛成派の住民らは逆に、このような事態に期待しており、最も危惧すべき現実問題である。
今、熊毛の住民らは防衛省による馬毛島基地着工により、島民の安全な暮らしが破られようとしているのである。中尾博士は、「平和を守る、あるいは平和を勝ち取ることは費用(カネ)もかかり疲れることである。しかしわれわれの(全人類)の生命を守り、国土を守るためにはそれをしなければならない。それこそが平和憲法を守る道なのである」と論述しているが、然りである。それから、南日本新聞の社説欄(2023年8月3日記事)に「過度な防衛力強化は周辺国への脅威になり、軍備強化を競い合う『安全保障のジレンマ』に陥りかねない」とあるが、このことは熊毛地域の住民のみならず日本国民全員が考えねばならぬ問題である。
2023年8月6日 種子島在住者 牧洋一郎
<参考文献>
中尾英俊『日本社会と法』日本評論社1994年
和田英夫『学習憲法』評論社昭和41年
八木沢二郎「総選挙の結果」『情況』情況出版2015年1・2月号
来間泰男『沖縄の米軍基地と軍用地料』榕樹書林2012年
樋口陽一=小林節『憲法改正の真実』集英社2016年
小林直樹『憲法第九条』岩波書店1982年
九州防衛支局『熊毛基地(仮称)建設事業に係る環境影響評価書のあらまし』(令和5年1月)防衛省『令和4年版日本の防衛』2022年