種子島通信 37
昨年5月に36号をお届けしてから、早や8カ月が過ぎようとしている。自衛隊馬毛島基地は、1月12日、環境アセスメント評価書縦覧開始と同時に、本体工事が着工されてしまった。地元首長が賛否を明言しないままの基地建設着工は極めて異例だが、ここに至る動きの早さは異常とも言える。
対応に追われ「通信」にも手が付けられないまま年を越して、読者の皆様にご迷惑をおかけしております。「報告を」との声もいくつか頂戴し、多忙の言い訳を一時封印してやっとパソコンに向かいました。
「行政手続き」で基地計画を推進する八板市長
前号では、市長が相変わらず賛否を明らかにしないまま、再編交付金や宿舎建設に関して「特段の配慮」を防衛省に求めたことを「黙認」と報じられてから、「判断材料をそろえたい」と防衛省との協議を重ねているところまでを伝えた。このままのらりくらりと任期満了まで逃げ続けるのか、はたまた頃合いを見て「苦渋の選択」と基地受け入れを表明するのか。しかし市長が選んだ道はそのどちらでもなかった。
9月議会に馬毛島小中学校跡地売却・馬毛島市道廃止・隊員宿舎用地売却の3議案を提出し、自ら「最期の切り札」を手放すに当たっての市長の弁は、「賛否とは切り離した行政手続き」だった。そしてその後は賛否を聞かれるたびに「賛否(同意不同意)を述べる情況ではない」と答え、公約については「公約違反には当たらない」「公約は常に私の頭の中にあり、国の動きに合わせてより現実的で、最善の対応を考えている。基本的に私の考えは変わっていない」と繰り返し、「任期を(責務を)全うする」と言い切っている。
突貫工事が始まった
「行政手続き」としての基地建設計画は濁流のように一気に動き出し、馬毛島基地建設で島の一部はお祭り騒ぎ、建設労働者の宿泊で、ホテルも民宿も満杯、観光客は予約が取れない。賃貸住宅や宿泊施設の新築改築で家賃相場が値上がりしている。建設業者同士で労働者の取り合いと賃金の吊り上げ合戦が起きている。第一次産業から建設業への人材流出が起き始めている。そして今後、島外資本の飲食業や風俗業がやって来て、組事務所なんかもできるかもしれない。8年かかる工事を4年で終わらせ、米軍の要請に応えて25年度にはFCLP運用を開始するという。4年後にはぺんぺん草も生えないくらい、色々なものが食い荒らされているのではないだろうか。
もう早くも、基地誘致派からさえ「こんなはずじゃなかった」という声が聞こえているという。始まってしまった狂騒曲のイントロは、昨年の夏ごろから大きく鳴り響いていたのだ。
本体工事着工の12日、反対派市民は抗議集会を開いた。急な呼びかけで平日の日中にもかかわらず、60名余りの市民が集まり抗議の声を上げたが、防衛省がアセス概要の説明に来た前日11日に、防衛省職員に対する抗議行動を作れなかったことに、種子島の反対運動の大きな課題が表れている。
容認の地ならしか、市長から防衛省への「確認事項」
7月22日、市長は防衛省に対して21項目の「自衛隊馬毛島基地(仮称)の設置に伴う 市民の不安と期待に関する確認事項」を提出した。騒音対策や「安心、安全」の確保、地域振興への対応などについて「配慮すること」「措置を講じること」などの言葉が並び、まるで容認前提だ、この内容で防衛省と協定を結ぶのかなどの声に市長曰く「あくまでも確認。防衛省の回答について市民の意見を聞いて(賛否を)判断する」。この時は9月議会で賛否を表明するのではないかと報道された。
確認事項への防衛省回答と、市説明会
8月10日防衛省が「確認事項」に対する回答を出してきた。お馴染みの官僚答弁の中で、米軍FCLPに関しては「飛行経路を遵守するとともに、地域への影響を最小限にとどめるよう、その都度、米側に申し入れてまいります」と、申し入れるしか対策が無いことをしれ~っと述べている。逆に自衛隊の訓練に関しては「部隊運用に支障のない範囲で、住民の皆様の生活に支障を生じさせないよう努めてまいります」と、住民より運用優先という軍隊の論理がさりげなく露呈している。
これを受けて16~22日、市長は市民に対して説明会を開いたが、小学校校区(自治会)ごとに地域に出向くことはせず、対象地域をいくつかに分けて、全て市民会館を会場に行われた。この時の市長にはまだ、市民の質問に誠実に答えようという姿勢がいくらかなりとも見て取れた。終了後に寄せられた質問への回答も、内容はともかく市民の意見を聴こうという雰囲気はあった。がしかし・・・後述の11月の市民説明会は、防衛省並みに木で鼻をくくった態度になってしまうのである。おりしも16日には当初市長が「必要ない」としていた馬毛島葉山港の浚渫工事が、市長の承認により始まっている。
市長、「行政手続き」の布石を打つ
9月2日、西之表市議会定例会での所信表明(馬毛島に関する部分)で、市長は「まず、私は、基地整備に賛同する市民を思います」と賛成派を筆頭に持ってきた。次に「一方、基地建設に反対する市民がいます」と他人事のように表現した。その反対する市民からの票を得て、賛成派候補と144票差で辛くも2期目当選を果たしたのにである。さらに「地元選出国会議員ほか関係者の尽力にも心から感謝します」と「森山センセイ」らを持ち上げた上で「現時点で、同意不同意が言える情況にはありません」と、賛否の表明を先送りにした。しかしこの所信表明の最大のポイントはそこではなく、最後の方の「今後、国による馬毛島の基地整備計画の進展により、市に求められる行政手続きがあれば適切に対応してまいります」の一言だった。
市民集会・デモ
市長の姿勢が今後の情勢を大きく動かすことになるという危機感を持って、4日、「馬毛島への米軍施設に反対する市民・団体連絡会(以下連絡会)」主催による集会とデモが行われた。集会には約130人、デモには約60人が参加し、「市長は公約を守れ」と声を上げた。当日は大阪の闘う仲間や野党国会議員も駆けつけてくれた。事態が進むことで島外からの連帯の声は確実に広がっている。
市長、反対の切り札を売り渡す3議案提出
そして市長は9月議会の追加議案として、馬毛島小中学校跡地売却・馬毛島市道廃止・隊員宿舎用地(種子島内)売却の3議案を提出した。これに先立つ5日、防衛省はこの3案件を市に要請したばかりである。元々防衛省は馬毛島の全島入手の意向を示していたが、八板市長はこれまで「考えていない」と市議会などで答弁してきた。しかし今回はもう段取りはできていたとしか考えられない。その証拠に、議案提出からわずか4日の13日には浜田靖一防衛相は米軍再編交付金支給の手続きを始めたと公表し、29日には馬毛島基地を「特定防衛施設」に、種子島の1市2町を特定周辺市町村に指定すると告示するのである。所信表明からの流れは防衛省の思惑通りということかもしれない。
住民監査請求
9月21日、反対派市民は前述の3議案で示された市有地売却2件、市道廃止1件の差し止めを求めて住民監査請求を行った。21日付で23人、26日付で339人、その後も追って出された請求人は400人を超えた。しかし市監査委員会は①市議会で審議中②違法、不当な契約が確認できない、を理由に不受理とした。監査委員のうち1名は反対派市議であるが、一体どんな議論が行われたのであろうか。請求の取りまとめを行った連絡会は、11月に補充書面を添えて471件の再請求を行っている。
3議案可決
9月30日、3議案は市議会で可決。以前から報告している通り、反対派:賛成派が7対7の同数であり、反対派から議長が選出されているため、賛成派に都合の良い議案は可決、都合の悪い議案は否決、それも常に1票差である。またこの日は歴史的な大チョンボにより市長の問責決議が否決された。反対派議員らが提出した議案に、賛成派の一人が賛成したのだが、何と提案者である反対派議員の一人が、「長時間の審議でぼ~っとしていた」と、賛成反対の電子評決ボタンを押し間違え、反対としたのだ。
夜8時過ぎまで及んだ最終本会議終了後、傍聴席から市長に対して「裏切者!」「今夜中に荷物をまとめて西之表から出て行け!」などのヤジが飛んだが、そのうちの二言三言は和田二人である。そしてその後の記者会見で、公約違反との声があるがとの質問に「公約は常に私の頭の中にあり、国の動きに合わせてより現実的で、最善の対応を考えている。基本的に私の考えは変わっていない」と市長は答えた。賛否は表明しないまま「現実的対応」と「行政手続き」を進める手法を、市長は一体誰から伝授され、どういう気持ちで実践しているのだろうか?
これが最後か?市説明会
11月19、20日、市による説明会が開かれた。もう、自治会ごとにわけることもせず、全市民対象に2日間だけであり、市街地に出ていくことが困難な大字地区の高齢者や、二日間だけでは日程が調整できない市民への配慮もなく、時間も限って「説明します」「ご意見があれば時間内では聞きます」という姿勢。ここで市民に対しては初めて、市長は米軍再編交付金を受け取って「教育関連に使う」と明言した。後日市HPでアップされた質疑応答の市側の答えは、防衛省よりもひどい。「今後も市政発展の ため、皆様のご意見を賜りながら尽力してまいります」と「引き続き防 衛省と協議を重ねてまいります」のコピペオンパレード。たった3カ月で、こんな風に堕ちてしまうなんて。
知事、馬毛島基地計画容認
11月29日、鹿児島県議会開会において、塩田康一知事は「総合的に検討した結果、県として理解せざるを得ない」と馬毛島基地建設容認の発言を行った。対する八板市長は同じ日に開かれた市議会での発言で、やはり賛否の表明はしなかった。地元自治体の首長による賛否表明に先立って、知事が容認発言をすることは、これまた極めて異例である。ちなみに知事は経済産業省出身の元官僚である。推して知るべし。
再編交付金を受け取り、賛成派に擁護される市長
12月16日、市議会最終本会議で、再編交付金を基金に積んで小学校の給食費を無償化するための条例案が可決。再度出された市長問責決議案は否決された。この問責決議に反対したのは、賛成派議員全員である。馬毛島基地反対だった市長はもういない。八板俊輔西之表市政は、馬毛島基地賛成派議員が市長を支える「与党」となったのだ。
西之表市長リコールについて(この項、和田伸による)
自衛隊馬毛島基地建設は、優れて戦争と平和の問題である。島内に多いと言われている自衛隊関係者に、なにゆえにか遠慮、配慮する、或いは執拗に米軍FCLPに特化した、目的と手段が転倒したような運動しかできない「馬毛島への米軍施設に反対する市民・団体連絡会」は論外であり、結成準備会、結成総会においても、自衛隊と正面から対峙しない運動など有り得ないと指摘して、参加を見合わせている。この団体は市民運動とはおおよそかけ離れた、いや市民運動とは何かを理解していないとさえ言える。公務員OBと現公務員との行政交渉団体と言った方が、よりわかりやすい。それ故国会議員や著名人は重宝するが、各地で闘う人民との連帯、連携はまるで軽視、今日に至っている。
さて今回の市長リコールであるが、もちろん市長の公約違反は重要事項であったが、私個人としては西之表市の自治とは何か、民主主義とは何かが最大の課題と言えた。6年前、そして2年前の選挙において、絶対反対、同意できないを公約として当選したが、それ以降実質容認としか言いようのない言動で、公約違反を平然と行い続けている市長。反対、中立、中間から当選後あっさりと賛成に転じた自民党の4議員、そして議長選出に関わる反対派市民からのその説明を求める公開質問書への再要求にも回答するどころか、あまつさえ怒りの議員辞職勧告にも知らぬ存ぜぬとばかりに、市内を闊歩する自称反対派の7議員。このように市長職を担保する選挙制度を、理解し得ていない市長、あたかも当然のように、公約を反故にする、つまり自ら議会制民主主義を冒涜し、破壊する行為を行っていることに気づきさえしない議会。このような市長や議会に、開かれた民主的なまちづくりができるのであろうか。否である。
このリコールは市長に対する主権者の異議申し立ての意思表示である。リコール署名期間は12月1日から1月1日までである。結果は完敗である。最大の敗因は、受任者を獲得できなかったことに尽きる。人口がほぼ同数の屋久島町では、数年前リコールに必要な署名数に達したが、最終的には約300人の受任者が集まったという。対して私たちの「市長に辞任を求める西之表市民の会」(以下市民の会)は約30人ほどであった。市長と友達だから、同級生だから、同じ集落だから、可哀そうだから、店の客だからなどなど、西之表ムラ社会特有の情緒的な理由で、署名を断る市民が多い中、己の意思で署名した市民は、胸を張ってもらいたい。私たち市民の会は、感謝している。今もっともやるべきことをやったということである。ここから西之表市の開かれた民主的なまちづくりに手を携えて取り組んでいきたい。希望と言う仲間もいる。この署名をした市民が、真に八板市長を信頼し支持、応援してきた人々だと言ってもいい(賛成派の市民も、わずかながらいたが)。
署名提出予定の4日、私たちは市長に面談を求めたが、体よく断られたので、秘書係の職員に「先の選挙時の144票差、それを大幅に上回るリコールの署名数、これらの市民の支持がなければ、八板市長は誕生しなかったということを、市長は肝に銘じるよう」と注文をつけた。
軍事基地のあるまちで、民主主義が可能か。既に沖縄与那国町では自衛隊関係者の票によって、基地反対の町長は誕生しないと言われている。もちろん暴力装置である自衛隊は民主主義とは無縁の存在である。軍事基地は、民主主義とは何か、基地のあるまちで民主主義は可能か。軍事基地はそれらを考える優れたテキストであろう。
もう「馬毛島を守ろう」の時期は過ぎ去った。これからは「馬毛島を返せ、馬毛島を取り戻そう」と言葉を変えて、声を、拳を上げ続ける。そもそも反戦平和の運動は今までもこれからも途切れなく続くのだ!
以上、かなり端折っての報告となり、川内原発の再稼働や増設など、他の重要な問題はまた後日となってしまうことをお詫びします。
南の島々の軍拡、その要となる兵站拠点・訓練拠点としての馬毛島基地の側面や、与那国、石垣、宮古、沖縄、奄美などの島々で進んでいる事態や、鹿屋基地米軍無人機受け入れの件、防衛費増額、安保三文書などなど書きたいことの多くにも、触れられませんでした。別のどなたかに、或いは別の機会に譲ることとします。
最近Facebook「和田伸」「和田香穂里」「和田かおり」で、馬毛島、種子島の現状が少しでも伝わればと、自衛隊馬毛島基地問題ほかあれこれを、せっせと投稿しています。是非ごらんください。
また毎回のお願いですが、種子島通信をメールやメッセンジャーなどで受け取っていただける方はその旨お知らせください。FacebookメッセンジャーかKaori.wada528@gmail.comまで。
文責 和田香穂里・和田伸
2023年1月 参考:南日本新聞