西之表市馬毛島は、米軍空母艦載機陸上離着陸訓練(FCLP)移転と自衛隊基地整備計画の「候補地」だったはずである。地元に説明がないまま、日米両政府が「整備地」として正式決定したことは理解し難い。
地元の頭越しでは住民の理解や協力は得られない。防衛省は地元を軽視するのではなく、誠実に向き合うべきである。
馬毛島の位置付けの変更が明らかになったのは、7日あった日米の外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)だ。岸信夫防衛相は会見で、2011年の2プラス2共同文書に「候補地」と明記された馬毛島について、「22年度予算案の(年末の)閣議決定をもって整備を決めた」とした。
大きな転換にもかかわらず、防衛省が西之表市に直接伝えたのは12日である。八板俊輔市長を訪ね、「安全保障は時間との勝負。わが国の防衛のため一刻も早く施設整備を進めることが必要」と理解を求めた。
基地整備が環境に与える影響を調べる環境影響評価(アセス)の最中であるだけに、決定は唐突であり容認できるものではない。アセス後に決めると大方の人は受け止めていたはずだ。
恒久的なFCLP施設を求める米国側の圧力に加え、中国の海洋進出や台湾有事を念頭とする南西諸島防衛の強化方針が背景にある。馬毛島整備を急ぐ必要があるにしても、地元への対応をないがしろにしては禍根を残す。
八板市長が「日米の協議が終わるまで地元や国民が整備決定を知らされないというのは手順としておかしいのではないか」と指摘したのは当然だ。
基地整備に賛成する住民からも「候補地としてのらりくらりかわしてきたから反発を招く」と批判の声が上がる。
馬毛島の計画は島全体を基地化し、訓練時には米軍機が離着陸を繰り返す国内で例を見ない巨大事業である。
昨年11月、滑走路建設などに使うコンクリートを作る仮設プラント工事の入札を公告。今月7日には、島内での管理用道路整備事業に着工したと発表した。22年度予算案でも基地整備費など3183億円を計上した。
防衛省はこれまで「地元理解を得る」と繰り返しているが、政府が島の大半を所有する民間会社との土地買収に合意した19年以降、整備ありきで手続きを強行してきたと言っていい。
こうした姿勢が地元自治体や県民に不信感を生んでいることを防衛省は反省すべきである。
塩田康一知事もきのう、防衛省から説明を受け、計画の進め方について「丁寧さに欠ける」と伝えた。知事には県民の暮らしを守り不安を取り除く責務がある。馬毛島は県全体の問題であり、国にもっと主体的に働き掛けてもらいたい。