南日本新聞社説/[馬毛島「意見書」] 知事は粘り強く追及を
( 10/16 付 )
西之表市馬毛島への米軍空母艦載機陸上離着陸訓練(FCLP)移転と自衛隊基地整備計画を巡り、鹿児島県の塩田康一知事は、防衛省の環境影響評価(アセスメント)「準備書」に対する39項目の「意見書」を同省に提出した。
準備書はアセス最終まとめの「評価書」の素案である。同省は年度内に評価書を作り、基地本体の工事に着手する考えだ。
地元が主張する最後の機会だった意見書が、十分に反映されるかは見通せない。一方で、防衛省が次々と手続きを進めることに不安を抱えている住民は少なくない。知事には国と粘り強く交渉し、県民の暮らしを守る責務を果たしてもらいたい。
意見書では大幅な減少が見込まれるマゲシカの長期間の事後調査や、大雨時の土砂流出防止などを求めた。
重視したのが米軍機騒音への対策である。夜間訓練の飛行回数や騒音レベル予測を分かりやすく示すよう求め、午後10時以降の訓練回避について国から米軍に要請することも注文した。
住民の間では特に騒音への懸念が強い。意見書の項目が実現すれば、騒音の実態がある程度見えてくるだろう。だが知事は着工の「条件」とまでは縛らず、定例会見で「無理なお願いではない。真摯(しんし)に対応してほしい」と述べるにとどめた。
知事は、計画自体への賛否表明も避けている。安全保障は「国の専管事項」とはいえ、県民の暮らしが影響を受けるのは明らかで、もっと踏み込んだ表現で国と対峙(たいじ)すべきではないか。
そもそも、アセスは形骸化している。
昨年11月、国はアセスの最中でありながら基地本体の仮設プラントを発注し、12月には総額3000億円超の関連経費を含む新年度政府予算案を閣議決定。日米両政府が地元の頭越しに「整備地」として正式に合意した。
防衛省は今年1月にも島内での管理用道路整備事業に着工した。さらに8月には、物資運搬港と位置づける島東岸の葉山港海底を掘り下げるしゅんせつ工事を始めた。市と県は「漁業者の安全確保」の観点から同意・許可したという。現実的な対応を取らざるを得ない、との判断が透けて見える。
計画反対派が“最後のとりで”としてきた馬毛島島内の小中学校跡地を国に売却する議案も、9月末の西之表市議会で可決された。急速に外堀が埋まっていく中で、県は地元と国の間に立ち、課題や問題点を追及することに及び腰であってはならない。
「自衛隊施設」との位置づけは、種子島1市2町が米軍再編交付金の支給対象になったことで揺らいでいる。米軍専用施設になる可能性を指摘する専門家もいる。さまざまな疑念が晴れないまま本格着工すれば、禍根を残す。