「種子島通信 36」(2022年5月)を転載します。
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今号まで、「馬毛島」は引き続き和田香穂里の担当ということになりました。そろそろ伸さんに復帰してもらわんと!防衛省の動きは加速する一方で、地元には「反対」の声など無いかのように、工事開始に向かって突き進んでいる。次から次の目まぐるしい展開についていくのがやっとかっしょ。
市長、計画容認へ⁉ 防衛省に「特段の配慮」求める
前号では昨年末に防衛省が種子島一市二町への関連施設の配置案を示し、八板俊輔西之表市長が「国の進め方は性急だ」「地元の判断材料が示されていない。現時点で反対の立場は変わらない」とコメントしたことや、西之表市馬毛島への米軍空母艦載機離着陸訓練(FCLP)移転と自衛隊基地整備計画に関して、初めて施設整備費3183億円の予算案が閣議決定された辺りまでお伝えしたかと思う。
明けて2022年1月7日のツープラスツーで、馬毛島は「整備地」として正式決定された。八板市長は1月中~下旬に市内各種団体からのヒアリングを行い、そこでは基地建設によってもたらされる「恩恵」「効果」=米軍再編交付金や補助事業による雇用増加や基盤整備、人口増や経済の活性化などに期待する声が多数を占めたという。
反対派議員が議長に就いたことで、賛成派の議決権が1票上回り「基地賛成」となったため(通信33、34号参照)、議会の後ろ盾を失った市長は、各種団体からの突き上げに抗しきれなかったのか、2月3日防衛省に対して「協議を求める」要望書を提出、その中で「再編交付金や自衛隊員の居住に特段の配慮を」求めた。地元マスコミには「馬毛島計画『黙認』」「交付金受ける意向」などと報じられ、反対派市民はとうとう市長が賛成に転じてしまったかと大きなショックを受けている。20年8月に「計画への不同意」を表明した市長は、21年1月の市長選挙で、馬毛島への計画に反対する市民団体と、計画不同意の立場を当選後も引き継ぐ旨の政策協定を結んでいるが、その市民団体には何の相談も無かったことから、「裏切られた」との声も。その直後には、地元関係者には米軍再編交付金が10年で290億円超と年末に伝えられていたとのニュースが地元紙の1面で報じられ、賛成派や容認派のアメへの期待が煽り立てられている。
マスコミの取材や反対派市民団体との対話で市長は「考えは変わらない」としながらも「問題は新たな段階に進んだ」「市民の期待や不安にどう対応するかを協議する場を求めた」などと答え、整備地として決定された新しい局面を迎え賛否や同意不同意は言えないと、3月議会では反対派も賛成派も、議長を除く全議員が一般質問で馬毛島問題を取り上げ市長の真意を質したが、曖昧な答弁に終始した。
しかし市長がどう説明しようと、マスコミや市民の多くが、市長はもう「計画には不同意」という立場ではなくなったと受け止めたことは間違いない。防衛省は好機とばかりに、2/13には岸信夫防衛相が鹿児島へやって来て塩田康一知事と会い「種子島一市二町と防衛省が同じ方向を向いて取り組む新たな段階に入った」「知事にも協力をお願いしたい」と基地本体工事に係る入札を進める意向を示した。対して塩田知事は、馬毛島が「整備地」に決まった際に事前説明がなかったことに不満を見せながらも、これまでのような「了承しかねる」「甚だ遺憾」という言葉は使わず「地元西之表市では意見が割れている」「アセス結果を見た上で、理解を得ながら進めることが大事では」とトーンダウン。
この時点で八板市長は、計画の賛否は環境影響評価(以下アセス)の最終段階の「評価書」を見て判断するとしていたが、その後、判断の表明はアセスの「準備書」への意見を県に提出する時期に前倒しするとの意向を示している。果たして一体どのような「判断」をするのか?
市が防衛省と「協議」と、防衛相の馬毛島初視察
八板市長が件の要望書で防衛省に求めた「協議」が2月28日から行われている。この原稿を書いている5月上旬までに既に5回の「協議」が行われた。市長は「市民の安心安全、幸福と利益を追求しなければならない」「基地や訓練の及ぼす影響など判断材料が示されていない。影響とその対策をしっかり評価することが市長としての責務」「市民の声に国がどう対応するか。計画の是非の判断材料をそろえたい」と、ここにきて今更何を言ってるんだかよくわからないが、反対派からは「整備前提の協議ではないか」との抗議の声、賛成派からは「(市長が)容認に傾くための口実ではないか」などの声が聞こえている。
協議そのものには市長は参加せず、市側からは大平副市長と関係課の課長、係長が臨み、防衛省からは地方協力局幹部が対応している。非公開であり、その内容がどのような形で市民に報告されるのかもはっきりとは示されていない。
1回目は協議の進め方と、市側から各種団体の意見聴取の結果、防衛省側から安全保障環境や地元説明の取り組みの報告。
2回目(3月16日)は米軍FCLPを含む飛行訓練や騒音について、防衛省から各種データが示された。飛行回数は年間28900回、うちステルス戦闘機F35Bなども含む自衛隊機が昼夜あわせて23500回、米軍機の5400回の中には22時~翌朝7時の深夜をまたぐ夜間帯約600回が含まれる。戦闘機の離着陸時の騒音は戦闘機の離陸時は10km離れた地点で80デシベルに及ぶという。
3回目(4月6日)には、市側から市のまちづくり計画と令和4年度予算の説明、防衛省からは地域と自衛隊との連携、地域との防災の取組の紹介があり、アセス準備書 (案)の概要の説明があったという。この際に岩国基地視察を市側が要望。
4月3日、岸田信夫防衛相は、現職の閣僚として初めて馬毛島を視察し、これに先立ち種子島1市2町の首長・議長らと自治体ごとに面会した。中種子町南種子町はすでに自衛隊誘致や基地計画賛成の立場で様々な要望をしてきているが、今回も種子島空港の活用などを求める要望書と計画への賛意を示す意見書を提出した。一方八板市長は「市民の安心安全を保てるよう、透明性のある協議をお願いした」。
4回目(4月12日)は市と防衛省が行った岩国基地視察後に、岩国市内で行われた。参加した大平副市長は「有意義だった」「岩国市は好意的に受け止めている印象だ」と取材にこたえているが、基地に反対する住民への意見聴取は行わずに帰ってきた。2018年に艦載機約60機が移駐して、今や極東最大の航空基地である米軍岩国基地は、海軍との連携など機能強化が進み、21年度で期限切れの再編交付金は、新たな交付金制度で従来と同規模が維持されるそうだ。国会議決の必要が無い大臣の「訓令」で支出する特別措置は、岸信夫防衛相の「御膝元」であるところも大きいに違いない。いずれにしても基地マネーは「政府の胸先三寸」でどうにでもなる一例に違いない。
5回目(4月19日)に防衛省は年度内着工の意向を示した。同時にアセスの準備書の概要も公表し、総合評価は「環境保全への配慮は適正」と、予想通りのお手盛り。アセス準備書は20日に公告され、5月19日まで縦覧、関係各自治体で住民説明会が実施される。
アセスについては、方法書の縦覧の際に通信で報告したが、そもそもその結果がどうであれ計画が中止になることはないというザルシステム、アリバイ作りのためのアワスメントであり、欧米のように住民の意見が計画に反映されるような仕組みにはなっていない。従って、「住民が直接意見を述べられる最後の機会」などとマスコミが説明しているのを聞くと、批判性の欠片もないことにウンザリする。
馬毛島アセス準備書の具体的な内容は読みこんでいないが、新聞の見出しには「種子島上空飛行『まれ』」「基地面積4割縮小」「マゲシカ保全」などの文字が並び、防衛省がさも影響への評価に配慮しているかのように受け止める住民もいるかもしれない。そんなことは最初から織り込み済みに決まってるじゃないか、どうせ意見を出したところで「ご意見は伺いました」で終わるんだろ、と思いながらも、黙って見過ごせないことがテンコ盛りの準備書を、読みもせずにスルーするわけにもいかず、さていつにするかと勤務のシフト表とにらめっこしている。
市民による抗議スタンディング
5回にわたる「協議」のうち岩国で行われた時を除く4回、そして4月3日の防衛相来島の際に、反対派市民は協議が行われた市役所庁舎近くや、面談が行われた合同庁舎近くの路上で抗議のスタンディングを行った。いずれも協議や防衛相来島の日時が前日午後以降に判明してからの急なよびかけだったが、40名前後の市民が集まって抗議の意を示した。しかし、誰かが来る時だけの行動でいいのだろうか?もっとできること、すべきことがあるのじゃないか、との思いを抱えつつ、海を隔てた馬毛島では直接行動もできない。仕事が休みの日のめおとスタンディングは続けているが・・・
反対派賛成派それぞれの「取り組み」
もちろん、スタンディングだけしているわけではない。反対派の取り組みとしては、2/21市長の「真意」について直接対話、2/24鹿児島市内でのシンポジウム(前泊博盛さん他)、3/1市長の「要望書」に対する抗議声明、4/10野党国会議員でつくる「沖縄等米軍基地問題懇談会」メンバーと市民との意見交換(秘書も含め10名以上が来島し、市長とも面談)、5/1「これからの馬毛島と種子島を考える講演会」(講師:伊藤千尋さん)、さらに5/21には「知性と歴史から読み解く馬毛島・種子島」と題するシンポジウムが開かれる。なんと一水会の木村三浩さんもパネリストに名前が挙がっている。
対して賛成派も、人を集める企画を始めている。3/20前統合幕僚長河野克俊講演(招待者のみで反対派は参加できなかったが、招待された市長は参加したらしい)、4/23「第一回西之表市未来創造サミット」と銘打ち交付金の有効活用を探る勉強会?これについては和田伸が後述する。
鹿児島県内の「軍拡」の動きあれこれ
薩南諸島や琉球弧における自衛隊配備やミサイル配備等の軍事化拡大の動きいわゆる「南西シフト」や、昨年末に示された「南西諸島」を米軍の臨時拠点として使用するという日米共同作戦計画案は、南の島じまを戦場にする前提にした言語道断の作戦計画だが、1月25日には「本土」である陸上自衛隊鹿屋基地に米軍の無人機「MQ9」の展開計画が報じられた。3月中には関連調査が行われ、早ければ今春から10機以上が展開され1年以上にわたり米兵100人超が駐留すると言う。鹿屋基地では2019年から米軍のKC130空中給油機訓練を受け入れており、地元鹿屋市は「訓練の拡大や米軍基地化は考えていない」とする協定を結んでいるが、米軍にNOを言えない防衛省と結んだ協定書に、どれだけ意味があるのだろう。
奄美にはこの3月に、電子部隊が新設された。電波や赤外線で攻撃を防ぐ最新式のシステムだそうだが、そんなもの置いていれば、真っ先に狙われるでしょうね。奄美駐屯地開設から激増している米軍機の低空飛行も相変わらずの様子。
(以下の項は和田伸による)
「西之表市未来創造サミット」(自衛隊馬毛島基地推進派団体主催)
4月23日、自衛隊馬毛島基地計画に賛成の「西之表市と馬毛島の未来創造推進協議会」による、「西之表市未来創造サミット」が開かれた。長くなりますが、重要な点ですので我慢して読んでください。理解しやすいように箇条書き風にまとめます。3/20の河野講演と違い今回は反対派も参加可能とのことで出かけました。
表紙には「経済的メリットを考えるイベント」とある。つまり金のことです。しかし経済とは経世済民のことなのですが、果たしてどこまで理解しているのやら。
次ページには「もう賛成も反対もありません」「一緒になって西之表市の未来を」云々と言うが、反対派を舐めてもらっては困る。私は人生の全てをかけて反対しているので、一緒にやる気など毛頭無い。私の周りのほとんどはそうである。
壇上の幟には「交付金に依存するようなまちにしてはいけません」とある。ナニ?これ?
集会の内容と言えば、
①
ア.西之表市自衛隊家族会会長「交付金は国からの最高の贈り物」。もう金じゃないか。
イ.協議会の事務でもあるという西之表市議は「交付金について」から「地域と自衛隊の連携」まで良いことばかりを羅列した挙句、ご当地グルメや特産品と自衛隊のコラボにより、自衛隊のワッペンを貼った焼酎やラーメンをアピール云々したが、誰か買う人がいるのだろうか。そして交付金を原資として先々には交付金に頼らない継続的持続的な環境を整備・・・で、もう私にはわけがわからない。良いこと尽くめの裏には同等かそれ以上の悪いことがあるのが世の常。
ウ.自民党市議団の市議は、なんと鹿屋基地の機能を西之表市に移転するよう防衛省に要望していると述べる。そして馬毛島を宝の山にしなくてはいけないとも。しかしこれまでの自然にあふれた好漁場でもある島が宝の山であり、賛成派は金の山にしようとしているとしか思えない。
わかりやすく言うと、まず交付金をもらい、まちが活性化を果たしたらそれ以降は交付金に頼らないまちづくりをするということらしい。これって何のこと?言語矛盾?それとも論理矛盾?この集会で最も議論すべき、交付金とは何かがすっぽり抜けている。だから基地とは何か、戦争とは何か、平和とは何かなど、目の前をかすめもしないらしい。交付金とはアメであり「黙らせ料」である。様々な不利益を甘受する代償であることも一切考慮せずに、まるで神からの贈り物―ただもらいと考えているようにしか聞こえない。
②だから二部のパネルディスカッションでも「交付金に頼らないまちづくり」がテーマなのに、交付金であれも欲しいこれもやりたいのオンパレード。
ア.商工会は、予算不足でイベントに有名人や有名キャラクターを呼べない、交付金で大々的なイベントをしたい。
イ.様々な箱モノへの要望も多いが、その中で建設業者が、馬毛島へは行きたくないという労働者が多いので、馬毛島の工事を取らないでいいという業者もいる。その代わり種子島で基地関連の工事をJVよりも地元業者に配慮してくれることを期待している。
ウ.市PTA連、交付金で子どもたちの安心安全な環境づくりが大事であるという。もう何をか言わんやであり、子どもの安心安全てそこかい!
エ.それでも農業・漁業者をはじめとして、他の分野でも原油高騰により経営が苦しい、圧迫されているとの声が出たが、これは私にも理解できる。
オ.しかし会場からの意見で、私とは意味合いがまるで違うのだが、賛成派が明確に答えを述べてくれた、ガソリン税の廃止を国会議員の「先生」に要請したらいいと。(この「先生」はいただけない)
カ.そう、交付金とは税の公正公平な使い方にも非常に関連している。つまり子どもや教育問題等は厚生労働省、道路は国土交通省、農業漁業は農林水産省へ要望要請すべきであり、防衛省の予算を使うのは本来筋違いであり、いびつな税の使い方となる。防衛省関連予算は、実質2%を超えているとも言われ、先の大戦の末期には国家予算の80%以上だったとも言われている。このまま防衛省予算が増え続ければ、当然のように他の分野は益々削減される。その負担は次世代以降に転嫁される。子どもの安心安全、P連大丈夫か?私から見ると、賛成派は多数派を形成するために交付金を餌にして、パネラーは利用されたとしか考えられないのだが、無論そんなことはあるまい。皆、大の大人なのであるから。でもやっぱり気になる。ハーメルンの笛吹き男に連れられていかないようにご注意。
講評では、市自治会長会会長もダメ押しのように、交付金に頼るしかないと思う、しかし頼ってばかりはいけないと。!?
③私の周りにも農業や漁業、商業などの知人友人がおり、皆一様に苦しいと言うが、誰一人として交付金を欲しいとは言わない。また基地の無い他の自治体や、特に全国の非正規労働者は、交付金無しで歯を食いしばって頑張っている。人間はそんなに強くない。何物にも拘束されず自力でやっていく気概の無い者が、一旦交付金をもらったら、それを途中から拒否できるのだろうか。防衛省は交付金を途中から要らないと言われたらどうするのだろうか。交付金が基地―戦争―他者の死を前提とするものである以上、「人は命を消費する魂の退廃に陥っていないか」(山口泉・週刊金曜日2022.4.22)。中には交付金を使って地元地域を活性化したいという自治会長もいるが、まだ戦争体験者は生存しており、その人たちは戦争のための交付金をどう思うのだろうか。
ちなみに第二部のファシリテーターは、以前ある集会で少々の犠牲なら交付金をもらった方がいいという趣旨の発言をしている。パネラーは誘導されたか。
最後に取材に答えて、私より遥かに知名度のある反対派市民が「最終的に基地に頼らないまちをつくりたい考えは理解できた」と言うが、理解すべきはそこではなく、まず交付金をもらう、そこが根本的に問題であるということだと思う。反対派の中にもこのレベルが多い。防衛省が「候補地」を「整備地」に決定され、西之表市の反対の姿勢もあってか、隣町二町に有利な関連施設配置案が示されたため、それまで反対派の多くから、何故「調整=裏工作」しなかったのかとの声が多く、担当課も嘆いている。ここでも金である。人間の心の裏側をまた見た思いがする。いずれにしても全く不可解なパネラーや主催者の発言と、感想を一言。参加者は意外と少なく、90名ほどで、隣の賛成派らしき男性が、パネラーが登壇したら客席に誰もいなくなったと嘆いていた。
最近「和田伸」でFacebookを始めたので、是非のぞいてみてください。種子島の情報が色々伝わると思います。
また毎回のお願いですが、種子島通信をメールやメッセンジャーなどで受け取っていただける方はその旨お知らせください。Kaori.wada528@gmail.comまで。
2022年5月 参考:南日本新聞