2022/08/30 11:01南日本新聞
鹿児島県西之表市馬毛島への米軍空母艦載機陸上離着陸訓練(FCLP)移転と自衛隊基地整備計画で、防衛省が本年度内の着工意向を示す中、八板俊輔市長は賛否の明言を避けている。市民の対立を懸念しての「配慮」とみられるが、2度の市長選では反対を掲げており、賛否両派から「煮え切らない態度が臆測を呼び、分断を助長する」との声も上がる。
2017年に県内初の再選挙を制した後、八板市長は「島にFCLPはふさわしくない」とする一方、「賛成、反対という表現には違和感もある」と述べた。
熊毛1市3町の首長らでつくる移設問題対策協議会(18年2月解散)の会長に就任すると、会の方針を「反対」から「中立の立場で正確な情報を収集する」に転換。島の大半を所有していた開発業者や防衛省から「賛成と言いにくい空気が変わった」「説明や交渉ができるのは歓迎」と好意的に受け止められた。
明確に反対を打ち出したのは1期目終盤の20年10月。馬毛島の施設配備案を示した防衛省の説明が不十分として、同省に42項目の質問書を送った。回答を受けて開いた会見で「施設整備で失うものが大きく、首長として同意できない」と表明した。以後、2度目の市長選を挟み、1年2カ月にわたって「計画不同意」を維持する。
しかし、22年に入って反対姿勢はなりを潜める。日米両政府がFCLP移転を伴う基地の「整備地」に馬毛島を正式決定。これを「新たな局面」とし、「しかるべき時に一定の考えを示す」と計画への賛否を濁すようになった。
2月には、隊員宿舎や基地整備による交付金への「特段の配慮」を求める要望書を防衛省に提出した。市民の多くは「事実上の方針転換」と受け取った。
21年1月の市長選で政策協定を結んで支援した反対派団体は「計画不同意の立場を当選後も引き継ぐとした約束に矛盾する」と批判。賛成派団体は「市を取り巻く情勢が変わり、防衛省に歩み寄りを見せたのでは」と推察する。
基地整備を巡っては、防衛省が環境影響評価(アセスメント)手続きを進め、物資運搬港と位置付ける馬毛島葉山港のしゅんせつに着手するなど、外堀が埋まりつつある。
八板市長は今月25日の塩田康一知事との面会後、報道陣に9月2日開会の市議会定例会で「一定の考えを示す」とした。ただ「白か黒かは難しいと思う」と付け加え、表明のあり方には依然含みを残している。