西之表市長「基地整備計画への所信 」 (令和4年第3回西之表市議会定例会)
西之表市長「基地整備計画への所信」 R4kitiseibishoshin2.pdf**********
令和4年第3回西之表市議会定例会
基地整備計画への所信
馬毛島への基地整備計画に対し、地元首長としての私の考えを申し述べます。
昨年末、政府において、閣議決定を以て基地整備の決定と考える旨の説明がなされて以降、市民の不安と期待による混乱が続いてきました。この新たな局面にあたり、私は地元市長として、基地整備に同意するか否か、改めて検討してきました。
私が留意するのは、基地整備が市民の幸福をどう左右するかの一点です。まず、私は、基地建設に賛同する市民を思います。自衛隊宿舎の誘致や各種交付金の活用を願う訴えが寄せられました。
要望書には「一次産業はじめ経済状況は深刻であり、各種交付金で巻き返しを図りたい」旨の記述があります。また、今年も自衛隊に入隊する市内の若者たちが誇らしい表情を見せました。基地整備を通して国への協力を意識する市民もいます。
一方、基地建設に反対する市民がいます。先の戦争を体験した世代には、共栄の名のもとに戦争に突き進み、悲惨な結果に至った記憶があります。高齢者や障害のある人など、弱い境遇の人たちは特に騒音への不安が根強く、漁業者は豊かな漁場喪失を死活問題と心配しています。馬毛島の類い稀な自然、歴史文化遺産の喪失を惜しむ声も小さくありません。
どちらも、平穏な今の暮らしを保ちたいと念じつつ、子孫の幸福を願い、地域の将来を思い、結論としては180度異なる選択に至ろうとしています。
私は、まちづくりを思う、すべての市民に感謝します。国の整備計画を機に市の発展を求めている市民に。基地建設によって失うものに思いを致している 市民に。そして、両方のはざまで判断に迷い、事態の行方を見守ろうとしている市民に。また、島出身者をはじめ、種子島を愛する多くの皆さんに。地元選出国会議員ほか関係者の尽力にも心から感謝します。
もし、馬毛島に基地が建設されれば、軍事施設に無縁な土地としては、国内では初めての事例となります。
今回、本市が整理した「市民の不安と期待に関する確認事項」への防衛省の回答を受けた説明会では、基地建設に期待の声がある一方、騒音への不安、漁場の喪失や基地建設後の操業に対する不安、地域振興策の将来世代まで含めた制度設計の要望、日米地位協定のあり方への疑問等の意見も出されました。環境影響評価(アセスメント)準備書への本市意見が、評価書にどう反映されるかも、しっかり確かめなければなりません。
他方、基地建設に係る予算が国会で承認され、本体工事着手への準備が進められています。不安解消等が未だ途上にある中、隊員宿舎や再編交付金等での国の動きに対応するために、一定の方向性を示さねばならない、次なる厳しい局面に迫られています。
加えて、勢力の拮抗する西之表市議会ほか、種子島の2町が賛意を示し、地域住民に賛否をめぐる多様な意見がある中で、1万5千市民の生命と暮らしを守る立場の市長として、基地建設のみが進み、負の影響のみを甘受する事態は避けなければなりません。今、最も優先すべき私の使命は、市民の安心安全の確保と不安解消に全力を尽くすこと。かつまた、期待の声にこたえる最大限の努力を注ぐことです。
世界に目を向ければ、ウクライナや台湾等をめぐる情勢を背景に基地整備が説かれていることもあり、建設容認に傾いている市民も少なくありません。私はこうした趨勢だからこそ、かけがえのないこの島の平穏を守りたい。そう願う小さな声にも寄り添いたいと考えます。
これまで、不安や期待に関する確認事項への防衛省の真摯な回答を以てしても、残念ながら、安心安全に関する諸課題はなお解決されていません。進行中の環境アセスも、環境保全措置が十分になされるかどうか、今後の注視が必要です。まだ市民の不安解消には至っておらず、現時点で、同意不同意が言える情況にはありません。
安全保障は国の専管事項ですが、「地元の理解を大切にする」との防衛大臣の言葉を思い起こします。
私は、今後とも、市民の安全・安心を守る立場から、市民の不安と期待に対する、さらなる具体的な措置を講じるよう国に求めていきます。
また、わが国周辺の安全保障環境の状況から、市民の意識にも変化があります。今後、国による馬毛島の基地整備計画の進展により、市に求められる行政手続き等があれば、適切に対応してまいります。
基地建設についての考えが、市民の間で大きく分かれていることは承知しています。しかし、今こそ、同じ土地に住む者同士、互いを尊重しつつ、力を合わせて難局を乗り切る覚悟が求められています。今日を懸命に生きる子どもからお年寄りまで、さらには未来の子どもたちが、安心して豊かに暮らせるまち3づくりのために、ぜひ御協力くださるよう、議員各位、市民の皆様にお願いし、馬毛島の基地建設に対する、現段階における私の考えと致します。
令和4年9月2日
西之表市長 八板 俊輔